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south_africa - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2012-05-22 17:34

2010-06-09 Wed

#408. South African English と American English の変種構成の類似 [south_africa][afrikaans][ame][variety][map]

 昨日の記事[2010-06-08-1]では,17世紀のオランダ語に基づいて南アフリカで独自の発達をとげてきた Afrikaans を話題にした.南アでは Afrikaans と並んで英語も広く理解され,民族の壁を超えて国内コミュニケーションに供している.英語は,母語としては人口の1割ほどが使用するに過ぎないが,非母語としては人口の半分ほどが理解するといわれる.このように ENL と ESL が共存する興味深い国であることは,[2010-04-05-1]の記事でも取りあげた.

Map of South African Provinces

 南アでの英語使用は19世紀初めにイギリスがオランダより the Cape を購入した時期に遡るが,本格的には1820年以降にイギリス人が大規模な移民を行うようになってからのことである.イギリス移民の最初期には,主に南東イングランドの田舎出身者が多く,かれらは Eastern Cape へ入った.このときの英語は諸言語との混交を経て,独特の変種を発達させた.これは Cape English と呼ばれる.
 次の大規模移民は19世紀半ばに行われた.このときには社会階級の高い者が多く,Yorkshire や Lancashire など北イングランド諸州からの移民が多かった.かれらは Natal に住み着き,後に本国とも連絡を取り続けたため,この英語変種は威信のあるイギリス標準英語に近いままに保たれた.これは Natal English と呼ばれる.また,特定の地域に限定されず南アで広く聞かれる General South African English と呼ばれる変種も発達した.
 上記の状況は,アメリカの変種の生まれた過程や現在の分布に似ている.主にイングランド西部からの植民者がアメリカ南部に Jamestown を設立してアメリカ南部方言の端緒を開き,主にイングランド東部からの植民者がアメリカ北東部を開拓して New England 方言の祖となった.一方,イングランド中部・北部やスコットランドなどからアメリカ中部に展開した植民者は,General American と呼ばれる地域色の薄いアメリカ英語変種の種を蒔いた.実際には移民の歴史はそう単純ではなく,いずれの変種も程度の差はあれ他変種との混交によって発展してきているが,移民元と移民先の変種に連続性があるという点では南アとアメリカの状況は比較される.実のところ,このような連続性は南アやアメリカのみならず,母語としての英語が移植された旧イギリス植民地では広く見られる現象である.
 ちなみに,南アには上に挙げた英語三変種のほかに,独特な South African Indian English も聞かれる.1860年代以降,インド人が労働力として Natal に連れて来られ,後に独特な英語変種を話すようになったものである.
 南アだけを見ても英語変種は少なくない.いわんや世界をや.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 112--15.

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2010-06-08 Tue

#407. 南アフリカ共和国と Afrikaans [south_africa][afrikaans][map]

 今月は FIFA World Cup の開催で South Africa が熱い.South Africa の英語使用については[2010-04-05-1]の記事で触れたが,今日は英語とも親戚関係にある Afrikaans を話題にする.

Map of South Africa

 南アの言語構成は複雑である.1993年の憲法によると,実に11の言語が公用語として認定されている.Afrikaans, English, Ndebele, North Sotho, South Sotho, Swazi (Swati), Tsonga, Tswana, Venda, Xhosa, Zulu.このなかでも Afrikaans は英語と並んで,第一言語としても第二言語としても国内で広く影響力を保っている言語である.Afrikaans はゲルマン語派の系統図 ( [2009-10-26-1] ) にも組み込まれているとおり,英語とは広い意味で親戚関係にある.アフリカの南端でなぜヨーロッパに端を発する二つの西ゲルマン語が話されているかというと,オランダとイギリスによる植民地の歴史が背景にあるからである.1652年,オランダ東インド会社は南西端の喜望峰 ( the Cape of Good Hope ) に交易所を設けた.このときに当時のオランダ語 ( Dutch ) が持ちこまれ,現在おこなわれている Afrikaans ( 別名 Cape Dutch ) の種が蒔かれた.オランダ語の一変種として種が蒔かれた後は,ドイツやフランスからの移民,原住民の Khoisan,アフリカやアジアからの奴隷による使用により言語変化を経て,言語体系は非常に簡略化してきた.Afrikaans は文法カテゴリーとして格 ( case ) や性 ( gender ) を失なっており,この点で英語ともよく似ている.両言語とも,諸民族に揉まれるなかで簡略化を経てきたと言えるだろう.
 Afrikaans についてはオランダ語との関係で,[2009-09-22-1]の記事でも少し触れているのでそちらも要参照.Ethnologue の Afrikaans の記述も参照.

Referrer (Inside): [2010-06-09-1]

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2010-04-05 Mon

#343. 南アフリカ共和国の英語使用 [south_africa][elf]

 母語としての英語 ( ENL ) を代表する地域として挙げられるのは普通,以下の国々ではないだろうか.アメリカ合衆国,イギリス,カナダ,オーストラリア,ニュージーランド,アイルランド.いわば英語語学留学に行ける国と考えるとイメージしやすい.( see [2009-10-17-1], [2009-10-21-1], [2009-11-28-1] )
 では,南アフリカ共和国 ( Republic of South Africa ) はどうだろう.南アは英語国として言及されることがあり,世界英語 ( World Englishes ) の話題でよく取り上げられる国である.しかし,上の5カ国と同グループに入れるのには違和感があるのではないか.世界の英語使用について ENL と ESL という区分を認めるとすると,南アフリカ共和国は,確かに両者の性質を合わせもった微妙な位置取りをしているのである.
 典型的な ENL 国では,国民の大多数が「アングロサクソン系」 の白人であり,イギリス英語の伝統を多かれ少なかれ受け継ぎつつ,公私の場で英語を母語として使用している.一方,典型的な ESL 国では,母語として英語を話す人口は存在するとしてもごく僅かであり,英語はあくまで第2言語として習得され,歴史的・政治的・文化的な機能を担う言語として存在している.
 上の典型の記述からわかるとおり,ENL と ESL が水を漏らさぬ相補的な関係であるわけではない.その隙間をつくような地域が存在するのも無理なからぬことである.南アには「アングロサクソン系」の白人で英語を母語としている人口が存在する.しかし,典型的な ENL 国とは異なり,かれらが国民の大多数を構成しているわけではない.英語母語話者は10%ほどである.この10%という ENL 人口は多くもないが少なくもない.この中途半端な人口比こそが,南アの微妙な位置取りの主たる原因である.国内での英語使用をみてみると,政治的・文化的な機能が強く,この点では明らかに ESL 的である.
 ENS と ESL という伝統的な区分のもとで,南アはいずれの側からも周辺的な存在とみなされる不遇(?)をかこってきたように思う.近年の議論では伝統的な英語話者の区分の妥当性が問われるようになってきており,南アはそのような議論に独自の例を提供できる立場にあるのではないか.

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