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sggk - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2012-05-22 17:34

2012-05-05 Sat

#1104. 美女の形容としての grey eyes (1) [romance][adjective][sggk]

 中英語ロマンスを読んでいると,ヒロインが grey eyes をもつ美女として描写されることが多い.美女の描写であるから,grey eyes が具体的にどのような瞳を表わしているのか,ぜひ知りたいと思うのだが,これが案外と難しい問題である.中世と現代とで美的感覚が異なることはおおいにあり得るとしても,「灰色の瞳」とは本当に美しいものなのだろうか.あるいは,中英語の grey の表わす意味が,現代英語の grey とは異なっていたという可能性はないだろうか.
 例えば,Sir Gawain and the Green Knight の ll. 81--84 の "wheel" 部では,アーサー王妃 Guenevere が grey eyes をもつ美女として描かれている(Andrew and Waldron 版より引用).

Þe comlokest to discrye
Þer glent with yȝen gray;
A semloker þat euer he syȝe
Soth moȝt no mon say.


 この gray の解釈は,編者によっても異なっている.Andrew and Waldron はグロッサリーで "(of eyes) blue-grey" としており,「青みがかった灰色」と解釈している.Gollancz, Barron, Tolkien and Gordon は,現代英語の grey と同一であるとしているおり,「青み」を積極的に排除しているわけではないが,基本的には「灰色」とみなしていることになる.grey eyes は灰色の瞳を指すという素直な解釈は,OED でも語義3において "Having a grey iris" として採用されている.
 しかし,MED では grei (adj. & n.) では,異なる解釈が示されている.語義 2 (b) で,"of eyes: bright, gleaming (of indeterminate color)" とあり,色合いではなく光り輝く様を記述する形容詞とされている.同じ解釈は Silverstein によっても示されており,"With lively, sparkling eyes" として注が与えられている.中英語には,greye as glas (The General Prologue, l. 152 の Prioress や,The Reeve's Tale, l. 3974 の粉屋の娘の形容)や grey as crystalle stone などの表現もみつかるし,「星のような目」という描写も広く見られることから,瞳の色合いそのものよりはその輝きに注目して美しさを表現するという伝統があったのかもしれない.
 西洋中世における美女描写の伝統については Brewer が詳しいが,12世紀より前には,文学上,さして重要な伝統とはされていなかったという.しかし,以降は,典型的な描写の伝統が中世の終わりまで続いた.その伝統の上に,時に革新的な表現が現われた.例えば,"whiter than the swan" のような美女の形容は中英語における創案とされる (Brewer 262) .一方,grey eyes はフランス語で創案された des yeux vaires の翻訳だろうといわれている.ただし,この vaires なる形容詞の解釈も,色合いと輝きのいずれを表わしたのか不明であり,grey eyes の解釈に必ずしもヒントを与えてくれない.

 ・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.
 ・ Gollancz, Israel, ed. Sir Gawain and the Green Knight. EETS os 250. 1950.
 ・ Tolkien, J. R. R. and E. V. Gordon, eds. Sir Gawain and the Green Knight. 2nd ed. Rev. Norman Davis. Oxford: Clarendon, 1967.
 ・ Barron, W. R. J., ed. Sir Gawain and the Green Knight. Manchester: Manchester UP, 1974.
 ・ Silverstein, Theodore, ed. Sir Gawain and the Green Knight. Chicago: U of Chicago P, 1983.
 ・ Brewer, D. S. "The Ideal of Feminine Beauty in Medieval Literature, Especially 'Harley Lyrics', Chaucer, and Some Elizabethans." The Modern Language Review 50 (1955): 257--69.

Referrer (Inside): [2012-05-06-1]

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2012-03-20 Tue

#1058. 中英語における choose の多義 [sggk][semantic_change][etymology][polysemy]

 現代英語の基本動詞の1つ choose は,語源辞典などを引くと非常に複雑な形態の歴史をもっていると知られるが,中英語での語義の展開のおもしろさについて言及されることは,あまりない.Sir Gawain and the Green Knight をグロッサリーを引き引き読んでいたら,choose が立て続けに予想外の語義で使われている箇所に出くわした(Andrew and Waldron 版より).

778: And he ful chauncely hatz chosen to þe chef gate,
. . . .
798: Chalk-whyt chymnées þer ches he innoȝe,


 MED "chesen (v)" の語義でいうと 8 と 9 に相当する意味である.

 8. To choose or take one's way; ~ wei (gate); proceed or go (to or from a place); refl. betake oneself; ~ fast, to hurry.
 9. (a) To perceive (sth., sb.); also, recognize; (b) to distinguish (one thing from another).


 前者は「(自らの道を)選ぶ,行く」,後者は「選別(判別,識別,弁別)する」ということになろうか.前者については,古高地ドイツ語やフランス語の対応語にも類似した語義があるという.後者については,現代英語に There is nothing to chose between A and B. (AとBの間に優劣はまったくない)という言い回しがあり,この表現での choose が 9. (b) の "distinguish (between A and B)" に近く,9. (a) の "perceive; recognize" にも通じることがわかる.ついでに,日本語を考えてみると,「子供のすることと選ぶ所がない」のように先の英語表現と近い表現がある.なお,OED では,B. 8, B. 7 の語義が上の2つの語義にそれぞれ対応しているが,いずれも近代までには廃用となっている.
 さて,choose をゲルマン祖語や印欧祖語へと遡ると,どうやら "test by tasting" (味わう,味見する)の原義にたどりつく.「味」を表わす gusto, gust などとも語源的に遠く関連している.「味の違いがわかる」=「選ぶ」と考えると,選ぶということは,生存のために必須の能力であるとともに,文化の香りすらする高尚な行為であると解釈できる.付け加えれば,elegant (上品な,優雅な)も,英語 elect (選ぶ)の源であるラテン語 ēligere (選ぶ)の現在分詞に由来し,「選択眼のある」が原義である.もっとも,選択や好みがうるさすぎると choosy となり,語感は一気に落ちる.
 現在では choose の上の2つの語義は廃れてしまったとはいえ,基本動詞の意味展開には興味深いものがある.

 ・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.

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2012-01-07 Sat

#985. 中英語の語彙の起源と割合 [lexicology][loan_word][statistics][me][sggk]

 [2011-08-20-1]の記事で「#845. 現代英語の語彙の起源と割合」を総括したが,中英語の語彙の内訳はどうだったのだろうか.これについても様々な研究があるが,従来の統計では,古英語由来の語彙が60--70%,古仏語由来の語彙が22--30%,古ノルド語由来の語彙が8--10%,それ以外が1%未満という数値が出されている (Duggan 238) .
 ところが,Norman Hinton が1980年代後半から発表している中英語語彙の大規模な調査の報告によれば,従来の統計とは相当に異なる数値が示されている.Hinton の論文は未入手なので,以下は Hinton の報告そのものではなく,Duggan (238--39) で言及されているその概要に基づくものだが,参考までに要約する.
 MED からランダムに取り出した数千語の見出し語とその語源情報に基づいて語種を分類した結果,Germanic 35.06%, Romance 64.54%, Other 0.35% という数値がはじき出された.従来の統計と比べると Germanic と Romance の数値が逆転しているかのようであり,統計の前提や手法によって,これほどまでに結果が左右されるものかと恐ろしくなる.いずれの統計も,眉に唾を付けて解釈しなければならないことは認めつつ,先を続けよう.

Etymological Makeup of Middle English Vocabulary

 Hinton は,Chaucer や Cotton Nero A.x の言語についても語彙分類を行なっており,中英語の特定の時期における語彙の平均的な内訳と比較することによって,各言語の「年代測定」を試みている.Chaucer の語彙内訳は Germanic 38.5%, Romance 61.2%, Other 0.09% という比率であり,これは1460年の平均的な比率に相当するという.また,Cotton Nero A.x については Germanic 58.7, Romance 41%, Other 0.15% という比率で,1390年の平均的な比率を指すという.これはもちろん理論値であり,絶対年代を指すわけではない.むしろ,Chaucer と Cotton Nero A.x の70年という相対的な差が,それぞれの語彙の使い分けの差,そしておそらくは文体的な差に対応しているかもしれないという可能性がおもしろい.

 ・ Duggan, H. N. "Meter, Stanza, Vocabulary, Dialect". Chapter 8 of A Companion to the Gawain-Poet. Ed. Derek Brewer and Jonathan Gibson. Cambridge: Brewer, 1997. 221--42.
 ・ Hinton, Norman "The Language of the Gawain-Poems." Arthurian Interpretations 2 (1987): 83--94.

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