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back_formation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2012-05-22 15:54

2010-09-08 Wed

#499. bracketing paradox の英語からの例をもっと [morphology][derivative][back_formation][word_formation]

 [2010-06-19-1], [2010-09-07-1]で扱った bracketing paradox について,Spencer を参照して英語からの例をもっと挙げてみたい.形態論上,語彙論上いろいろな種類の例があるようだが,ここでは分類せずにフラットに例を挙げる.

wordmorphological analysissemantic analysis
atomic scientist[atomic [scient ist]][[atomic science] ist]
cross-sectional[cross [section al]][[cross section] al]
Gödel numbering[Gödel [number ing]][[Gödel number] ing]
hydroelectricity[hydro [electric ity]][[hydro electric] ity]
macro-economic[macro [econom ic]][[macro economy] ic]
set theorist[set [theory ist]][[set theory] ist]
transformational grammarian[transformational [grammar ian]][[transformational grammar] ian]
ungrammaticality[un [grammatical ity]][[un grammatical] ity]
unhappier[un [happi er]][[un happy] er]


 atomic scientist の分析が示唆するように,sciencescientist の形態上の関係は必ずしも単純ではない.単に基体 ( base ) に接辞 ( affix ) を付加して語形成するわけではないからである.ここに bracketing paradox にまつわる形態理論上の難しさがある.次の各例は,想定される基体に接辞を付加するだけでは生成されない明確な例である.

derivativebase
baroque flautistbaroque flute
Broca's aphasicBroca's aphasia
civil servantcivil service
electrical engineerelectrical engineering
general practitionergeneral practice
medieval sinologuemedieval China
modern hispanistmodern Spain/Spanish
moral philosophermoral philosophy
nuclear physicistnuclear physics
serial composerserial composition
Southern DaneSouthern Denmark
theoretical linguisttheoretical linguistics
urban sociologisturban sociology


 結果として生じる派生語のほうが短くなってしまう例すらあるので,[2009-08-12-1], [2009-08-13-1]などで見た逆成 ( back-formation ) の例とも考えられる.実際に Spencer はこれらの語形成( personal noun に関するものに限るが)を,"a novel type of word formation process, a productive back-formation" (680) と結論づけている.
 通時的な関心からみると,"a novel type of word formation process" という表現が気になる."novel" には比較的最近の新しい傾向という含みがあるが,この語形成の生産性が通時的に伸長してきたという事実はあるのだろうか.直感的には,現代の職業や役割の細分化にともなって atomic scientist のような複合語的 personal noun の需要が増えてきているということは言えそうである.

 ・ Spencer, Andrew. "Bracketing Paradoxes and the English Lexicon." Language 64 (1988): 663--82.

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2010-04-06 Tue

#344. cherry の異分析 [metanalysis][back_formation][plural][french][etymology][doublet]

 東京は桜が満開である.散り始めているものもあり,花見の興は増すばかりである.言うまでもなく桜は散るからよいわけだが,スコットランド留学中,フラットのそばにあった桜は,あの寒々しい冬のうちから季節感もなく咲き,風の吹きすさぶなか,散らずに屹立していた.はかなさも何もなく,かわいげがないなと思ったものである.桜の種類が異なるのだろう.
 「さくら」はイギリスでも古くから知られている.合成語の一部としては cirisbēam 「桜の木」として古英語から存在していたし,現在の cherry につながる形態も早く1300年くらいにはフランス語から借用されていた.われわれも何かと親しみ深いこの単語,実は英語史では数の異分析 ( numerical metanalysis ) の例として話題にのぼることが多い.借用元の Old Norman French の形態は cherise であり,<s> はもともと語幹の中に含まれている.ところが,借り入れた英語の側がこの <s> を複数語尾の <s> と誤って分析してしまい,<s> を取り除いた形を基底形として定着させてしまった.これが,cherry のメイキングである.ちなみに,フランス語 cerise が「さくらんぼ色(の)」の意味で19世紀に英語に入ったので,cherrycerise二重語 ( doublet ) の関係にあることになる.
 語幹末尾の <s> を複数形の <s> と取り違えて新しい単数形を作り出す例は他にもある.pea 「エンドウマメ」の歴史的な単数形は本来 pease ( < OE pise < LL pīsa ) だが,<s> が複数語尾と間違えられた結果,pea が新しい単数形として生み出された.同様に,sherry 「シェリー酒」はスペイン語の Xeres に由来し,英語へは16世紀に sherris として入ったが,17世紀には異分析されて生じた sherry が使われ出した.(シェリー酒はお酒を覚えたての頃に大飲みしてひどい目にあったので,いまだにあの匂いにはトラウマ的抵抗がある.)
 上の述べた類の numerical metanalysis は,元の語幹の一部を切り取る語形成であるから,逆成 ( back-formation ) の一種ともいえる.逆成については back_formation の各記事を参照.

 ・ 児馬 修 『ファンダメンタル英語史』 ひつじ書房,1996年.111--12頁.

Referrer (Inside): [2012-01-31-1]

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2009-08-13 Thu

#108. 逆成の例をもっと [back_formation]

 [2009-08-11-1], [2009-08-12-1]逆成 ( back-formation ) の話題を取りあげた.逆成のタイプは数種類あるが,editorburglar などのように,行為者接辞 -er, -ar, -or が差し引かれるタイプをいくつか挙げてみよう.語源辞典より初出年も添えておく.

動詞初出年行為者名詞初出年備考
baby-sit1947baby-sitter1937 
beg?a1200beggar?a1200 
bulldoze1876bulldozer1876 
burgle1872burglar1541 
commute1889commuter1865「定期券で通勤する」の意で
edit1793editor1712「編集する」の意で
peddle1532pedlarc1378 
scavengea1644scavenger1530 
sight-see1835sight-seeing1824 
swindle1782swindler1774 
type-write1887type-writer1868 


 begbulldoze などは,初出年は対応する行為者名詞と同じである.このような場合,どちらが先に立つかは,同じ年でも日付が異なるとか,文脈から判断されるとかいうことなのだろうが,そもそも文献に現れるタイミングと実際に口語で使われはじめるタイミングは一致していないことも多いので,初出年は常に参考として読むべきである.ちなみに,初出年に現れる省略記号の "a" は ante 「〜より以前」を,"c" は circa 「〜頃」を表す.
 日本語にも逆成の例はいろいろとあるはずである.「狂い咲き」→「狂い咲く」,「待ち伏せ」→「待ち伏せる」など.他に何があるだろうか?

Referrer (Inside): [2010-09-08-1]

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2009-08-12 Wed

#107. 逆成接辞変形 [back_formation][affixation][metanalysis][word_formation]

 昨日の記事[2009-08-11-1]で,「エロ」は「エロチック」からの逆成 ( back-formation ) の例かもしれないと述べた.逆成とは,ある語の語尾を接尾辞や屈折語尾と混同し,それを除去することで語を形成する作用である.多くの場合,異分析 ( metanalysis ) と類推 ( analogy ) も同時に起こっており,過程を説明しようとすると複雑なのだが,例を見ればすぐに理解できるし,実際に頻繁に起こっている語形成 ( word formation ) である.
 [2009-08-11-1]では editor > edit の例をみたが,今日は説明に burglar > burgle を取りあげてみる.burglar 「強盗」は,ラテン語に語源をもつが,直接的にはアングロ・フレンチ ( Anglo-French ) から burgler という形で16世紀に英語に借用された.その後19世紀に,語尾の -ar は行為者を示す語尾であると異分析され,それを差し引けば動詞ができるはずだとの発想から burgle 「強盗する」という動詞が逆成された.もっとも,-ar が行為者の接尾辞であるとした部分は,語源的には必ずしも誤解ではないかもしれない.直前の l も含め,語源的にはよく分からない語尾なのである.だが,それを全体から差し引くという発想が革新的だった.この発想の背後には,動詞 + -ar として行為者名詞が派生される例が英語に存在するという事実に基づく類推 ( analogy ) の作用があったと考えてよい.ex. beggar, liar, pedlar.
 比例式で表現すると次のようになる.

 lie : liar = X : burglar  ゆえに
 X = burgle


 lie > liar というごく自然な順序の派生は接辞変形 ( affixation ) と呼ぶが,back-formation はその反転の作用といっていいだろう.
 ちなみに,back-formation という用語自体は OED の編集主幹 J. A. H. Murray の造語で,上記の burgle の語源説明に用いたのが最初である(1889年).ただし,back-formation から逆成されてしかるべき back-form という動詞は,いまだ OED にも登録されていない・・・.

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2009-08-11 Tue

#106. 「エロ」と「エステ」は逆成か切り株か [japanese_english][back_formation][metanalysis][clipping]

 昨日の記事[2009-08-10-1]で,日本語に入った「チック」語を『広辞苑』から列挙してみたが,そのなかで,語形成 ( word formation ) について気になる語が二つあった.「エロチック」 erotic と「エステティック」 Ästhetik (German) である.後者はもちろん英語にも aesthetic という対応語がある.
 erotic はギリシャ神話の恋愛の神 Eros 「エロス」に接尾辞 -ic を付加して派生させた形容詞である.ところが,日本語では -ic ではなく「チック」「ティック」を接尾辞として異分析して切り出した([2009-08-02-1], [2009-08-03-1], [2009-08-10-1]).この異分析を「エロティック」「エステティック」に当てはめると,基体はそれぞれ「エロ」と「エステ」となる.そして,この基体はいずれも英語には存在しないため,結果として和製英語となっている.数式風に表現すると次のようになる.

 ・「エロティック」 - 「ティック」 = 「エロ」
 ・「エステティック」 - 「ティック」 = 「エステ」


 この引き算の部分は,語形成の立場からは二通りの考え方があるように思われる.一つは,逆成 ( back-formation ) である.普通は,基体が先にあって,その基体に -ic などの派生接辞を付加して新しく語を形成するという順序になるが,こうした派生パターンがいったん確立すると,先に派生語とおぼしき語が現れ,そこから逆の順序で基体が復元的に形成されるという事態が生じる.英語の有名な逆成の例に editor > edit がある.この名詞と動詞のペアについては,行為者を表す接尾辞 -or が付加された editor が先に生じ,そこから -or を差し引いて動詞 edit が作られた.普通からすると順序が逆の語形成なので,逆成というわけである.この考え方でいけば,「エロ」「エステ」は日本語において異分析と逆成の両過程を経た結果の語ということになる.
 もう一つの考え方は,切り株 ( clipping ) と呼ばれる省略が起こっているとするものである.切り株とは,語の一部を切り取るタイプの省略のことである.「エロティック」「エステティック」では長いので,後半部分は省略してしまおうということで,「エロ」「エステ」という省略語ができたとする考え方である.日本語は切り株が得意なので,十分にこの解釈もとりうる.
 上記の二つの考え方のいずれか,あるいは両方が掛け合わされたという説明もありうるが,いずれにせよ,借用語の「エロティック」「エステティック」から日本語の語形成過程を経て「エロ」「エステ」が生まれた.だが,話しはそこで止まらない.「エロ」「エステ」は一人前の語として一人歩きをはじめ,各種の複合語を生み出し続けている.「エロ小説」「エロ本」「エロ漫画」「エログロ」「韓国エステ」「花嫁エステ」「耳かきエステ」等々.
 そして,「エロ」に至っては,なんと日本語では珍しい外来語を基体にもつ形容詞「エロい」が生まれた!快挙である.(ちなみに「グロい」も.)
 日本語話者の性と美 (←エロスの世界)を追及する心のなせるわざか,日本語の語形成力のなせるわざか,こうして日本語の語彙は豊かになってゆく・・・.

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