豪州3例目の二重国籍議員のニュース


                   中央大学法科大学院 奥田安弘


このページは、奥田安弘×荻上チキ「蓮舫氏の『二重国籍』は問題なし。説明責任は法務省にあり」シノドス2017年7月21日(http://synodos.jp/politics/20135)の補足「豪州の議員辞職のニュース」と「蓮舫氏の国籍会見」をさらに補足するために作成しました。前者については、さらに3例目~7例目の二重国籍議員の問題が浮上していますし、後者については、法務省の「怪文書」がなぜ問題であるのかをもう少し詳しく説明しておこうと思ったからです。

なお、オーストラリア現地の情報は、シノドス掲載分を含め、トレバー・ライアンさん(キャンベラ大学教授)から送って頂いたものによっています。もちろん文責は私にあります。追記は、すべてオーストラリアの続報です。下記をクリックすれば、該当の箇所にジャンプします。

豪州憲法の論点】【日本は“法治国家”ではないのか】【豪州4例目の二重国籍議員】【豪州5例目の二重国籍議員】【豪州6例目の二重国籍議員】【豪州7例目の二重国籍議員】【連邦最高裁の審理開始】【豪州残り二人の審理開始】【豪州最高裁の決定


2017年7月26日

豪州憲法の論点

7月25日、オーストラリアのカナバン資源・北部担当相が辞任したというニュースが流れましたが、上院議員としても辞職するのかどうかは、裁判所の判断を仰ぐそうです。現地の報道によれば、先に辞職した「緑の党」の2名の議員との違いが争点になるようです。

スコット・ラドラム議員は、ニュージーランド生まれであり、家族とともにオーストラリアに移住して帰化しましたが、まだニュージーランド国籍を離脱していませんでした。またラリッサ・ウォーターズ議員は、両親ともにオーストラリア人ですが、カナダでの出生によりカナダ国籍を取得しました。出生後すぐにオーストラリアに戻りましたが、カナダ国籍を保持していたケースです。ところが、カナバン議員は、オーストラリア生まれです。出生地主義の国オーストラリアでは、生まれた場所が重要であり、外国生まれの「緑の党」の議員との違いにより、二重国籍を議員の欠格事由と定めた憲法44条1号に該当しない、と主張したいようです。

また、カナバン議員の母親もオーストラリア生まれであり、イタリアに行ったこともないのに、2006年にブリスベンのイタリア領事館でイタリア国籍を申請し、同時に当時25歳であった息子の分も申請したようです。イタリア政府によれば、カナバン議員のイタリア国籍取得は有効だそうですが、オーストラリアの裁判では、出生後の国籍取得であるにもかかわらず、自分のまったく知らない間に申請がなされた点も、憲法44条1号の適用を争う理由として主張されるようです。判例によれば、立候補の段階で外国国籍離脱の手続きをとる必要がありますが、イタリア国籍の取得を知らなかったので、離脱の手続きをとるチャンスがなかったというのです。

現地の報道は、イタリアの国籍法について詳しく述べていませんが、かつてイタリア国民であった人とその子孫は、イタリアに住んでいなくても、イタリア国籍の取得を申請することができるようです。おそらくカナバン議員の母親は、この制度によりイタリア国籍の申請をしたのだと思います。しかし、当時すでに25歳になっていた息子が自分で申請していないのに、イタリア国籍を取得したというのは変です。イタリア国籍の申請に関する家族の話し合いには、カナバン議員本人が参加していたという情報もあります。

従来の判例では、外国国籍の取得が本人の意思によるのかどうかは、関係ないとされています。ただし、外国の国籍国との関係が希薄である場合は、憲法44条1号の適用はないとも述べられています。これは、ウォーターズ議員にも当てはまるかもしれませんが、とくにカナバン議員は、イタリアに滞在したことがないので、関係が希薄だと言えます。

さらに学説や裁判所の少数意見などでは、憲法44条1号の適用を成年後の自発的な外国国籍取得の場合に制限すべきだと主張されています。おそらくカナバン議員の裁判でも、このような主張がなされるだろうと思います。

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日本は“法治国家”ではないのか?

以上は、あくまで憲法が議員の二重国籍を禁止するオーストラリアの話です。維新の会の法案が廃案となった日本では、議員の二重国籍に法的問題がないのは明らかです。ところが、法的問題がないのに、議員辞職をすべきであるかのような議論を目にすると、日本は、いつから「法治国家」でなくなったのだろうかと思ってしまいます。

たとえば、自民党の小野田紀美議員は、アメリカ国籍を離脱したと言いますが、本当にオーストラリアの例にならえば、小野田氏も議員辞職です。前述のとおり、オーストラリアの判例によれば、立候補の段階で外国国籍離脱の手続きをとっている必要があるからです。二重国籍であるのかどうかが投票に影響を及ぼすのであれば、議員になった後に、二重国籍が判明し、外国国籍を離脱したのでは遅すぎることになります。

しかし、いずれにせよ、公職選挙法は、日本国籍だけを要件としていますから、議員辞職の必要はありません。二重国籍であった経歴が問題だというのであれば、次の選挙で有権者の判断に委ねるべきでしょう。

蓮舫氏の場合は、そもそも二重国籍かどうかに疑問があります。法務省が蓮舫氏に「国籍選択届」を行政指導したということは、未承認である中華民国政府の国籍法を適用した場合にしか起こりえない「外国国籍を有する日本国民」であることを、法務省が認めてしまったことになるからです。「蓮舫氏側から問い合わせがあったから答えたまで」ということで済む問題ではありません。

これが行政指導であるとしたら、手続面でも問題があります。戸籍法127条は、行政手続法第2章と第3章の適用を除外していますが、行政指導を定めた第4章の適用はあります。その規定に違反した行政指導は、違法ということです。今回とくに気になるのは、法務省民事局民事第一課がそのような行政指導をする立場にあったのかという点です。

戸籍事務は、市町村長が管掌者であり、法定受託事務とされています(戸籍法1条)。法務局は、必要に応じて、助言や指示などをすることができますが(戸籍法3条2項)、届出の受理や不受理という行政処分をする権限は、あくまで市町村にあります。その市町村が受理や不受理の判断に困った場合は、法務局を経由して、法務省に指示を求めることができますが(いわゆる受理照会、戸籍法施行規則82条)、いくら届出人が国会議員であり、問い合わせがあったからといっても、法務省が直接に回答するのは、手続的にみて疑問です。

また、法務省の行政先例(平成11年11月11日民二・民五第2420号通知)によれば、市町村は、戸籍の届出に関する相談があった場合は、該当の届出手続きがあることだけを説明するよう指示されており、「届出をすべきである」とか、「届出をしても不受理になる」とかいう説明は認められていません。それにもかかわらず、今回は、法務省自身が「国籍選択届」をすべきであるかのように回答しており、自ら市町村あての通知に違反する行為をした疑いがあります。

国籍法15条は、国籍選択をするよう催告する権限を法務大臣に与えているから、それを「行政指導」という形でしても構わないと思うかもしれませんが、法律的には、そういう曖昧な処理は認められません。正式な催告であれば、「法務大臣名」で行うはずなのに、「法務省民事局民事第一課」という名で怪文書が作られています。催告を受けてから、1か月以内に日本国籍を選択しなければ、日本国籍を失うわけですから、催告の日を明らかにすべきであるのに、怪文書には日付がありません。到底この怪文書を国籍法15条の「催告」だというわけにはいかないのです。

このように「法治国家」では、政府は、あくまで法律を遵守して行動すべきであり、それをないがしろにするようでは、もはや「法治国家」を名乗る資格はないだろうと思います。

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【追記】2017年8月10日

豪州4例目の二重国籍議員――今回は極右政党の議員

オーストラリアは、議員の二重国籍を禁止した憲法44条1号のお陰で大変なことになっています。今度は、ワン・ネイション (One Nation) という極右政党のマルコム・ロバーツ上院議員のイギリス国籍離脱が遅かったことが問題となっています。つまり当選から1か月後にやっとイギリス国籍を離脱したというのです。

前述のとおり、オーストラリアの判例によれば、立候補の段階で外国国籍離脱の手続きをとっている必要があります。ちょうど連邦議会が開催されている時期ですので、ロバーツ議員の件も、他の3人と同様に、議会から最高裁判所 (High Court of Australia) に付託がなされたそうです。これは、選挙の結果に関する紛争を処理するための手続きであり、最高裁判所は、いわゆる選挙結果紛争裁判所 (Court of Disputed Returns) として審理することになります。オーストラリアでは、これまでも憲法44条により議員資格が争われた事件が幾つかあり、それらの前例にならえば、今年の秋頃(9月~11月)には判断が下されるようです。

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【追記】2017年8月15日

豪州5例目の二重国籍議員――国民党党首の副首相

日本のメディアは、4例目のマルコム・ロバーツ上院議員の二重国籍問題を報じていませんが(注)、5例目のジョイス副首相(国民党党首であり下院議員)の二重国籍問題は報じています。現地の情報により、若干補足しておきます。

(注)うがった見方をすれば、ロバーツ議員の場合は、すでにイギリス国籍を離脱しており、これを取り上げたら、アメリカ国籍を離脱した自民党の小野田議員が問題になるからかもしれません。前述のとおり、本当にオーストラリアの例にならえば、小野田氏も議員辞職です。

ジョイス議員の父親は、ニュージーランド生まれのニュージーランド人ですが、シドニー大学に留学中に今の妻と出会い、議員本人は、オーストラリアで生まれました。しかし、父親がニュージーランド人であるため、ニュージーランド国籍を取得したとニュージーランド側から知らされたそうです。もちろん他の4人と同様に、ジョイス議員の件も最高裁判所に付託されました。

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【追記】2017年8月17日

豪州6例目の二重国籍議員――国民党副党首の上院議員

今日の現地の報道によれば、国民党副党首であり、地方開発担当大臣であるフィオーナ・ナッシュ上院議員について、父親がスコットランド生まれの英国国民であったので、豪英二重国籍であることが判明しました。母親は、オーストラリア生まれのオーストラリア人であり、ナッシュ議員が8歳の時に離婚したので、父親とのコンタクトは、ほとんどなかったそうです。ナッシュ議員の件も、最高裁判所に付託される見通しです。

連邦議会の上院と下院は、翌日から閉会であり、会期中でなければ、議員の欠格事由に関する事件は、最高裁に付託されませんが、まだ二重国籍の問題が起きそうな議員が複数いるようです。9月以降は、両院がともに開かれている会期と片方だけが開かれている会期があります。最高裁の判断は、これらの会期に関係なく下されるので、その結果が待たれるところです。もちろん憲法改正の議論も、一段と熱を帯びてきています。

議員の二重国籍禁止規定を設けたら、こういうことが起きるわけです。皆さんは、これをどう思いますか?

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【追記】2017年8月20日

豪州7例目の二重国籍議員――少数政党の創始者

日本のメディアは、4例目と6例目を詳しく報じていませんが、Nick Xenophon Teamという少数政党の創始者であるニック・ゼノフォン上院議員のケースを7例目として報じています。ただし、若干異なるニュアンスで伝わるおそれがあるので、現地の情報などにより補足しておきます。

ゼノフォン議員はオーストラリア生まれですが、父親は英領時代のキプロスで生まれ、英国国籍を有しており、母親はギリシア生まれのギリシア人だったようです。ゼノフォン議員はギリシア国籍を離脱していましたが、英国国籍が残っていたために、問題となったようです。

本人は最高裁の判断を仰ぎたいと述べていますが、6例目で紹介したとおり、連邦議会は8月18日から閉会中であり、この事案が議会から最高裁に付託されるのは、9月4日に議会が再開されてからになります。また本人は、英国国籍が残っていたことを知らなかったと述べていますが、それは、これまでの6例と同様であり、憲法44条1号の論点としては、とくに目新しいものはありません。

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【追記】2017年8月24日~29日

豪州最高裁の審理開始

現地の報道によれば、豪州最高裁は、24日からブリスベンで憲法44条1号の欠格事由の審理を始めるそうです。しかし、キャンベラで弁論が開かれるのは、10月中旬だそうですから、最終的な決着までは、まだ時間がかかりそうです。

審理の対象となるのは、スコット・ラドラム(緑の党、前上院議員)、ラリッサ・ウォーターズ(同)、マット・カナバン(国民党、前大臣)、マルコム・ロバーツ(ワン・ネイション、上院議員)、バーナビー・ジョイス(国民党、副首相)の5名です。フィオーナ・ナッシュ(国民党副党首、上院議員)およびニック・ゼノフォン(ニック・ゼノフォン・チーム、上院議員)は、議会が休みに入った後に問題となったので、今回の審理には含まれません。

日本では、豪州憲法による議員の二重国籍禁止を世界の常識であるかのように主張しながら、このように騒ぎが大きくなったら、オーストラリアは移民の国だから特殊だと主張するメディアがあります。しかし、オーストラリアは、一般的には二重国籍を容認しながら、議員の二重国籍だけを厳しく制限するから問題となっていることに注目する必要があります。

オーストラリアには、国籍選択制度はありません。外国人がオーストラリアに帰化する際にも、重国籍防止条件はありませんから、元の国籍をそのまま維持することができます(もっとも、相手国しだいですが)。オーストラリア人が帰化など自分の意思で外国国籍を取得しても、オーストラリア国籍を失うことはありません(これも、相手国が重国籍防止条件を設けていたら駄目です)。ノーベル賞学者の南部陽一郎教授や中村修二教授がそれ以前にアメリカに帰化しており、自動的に日本国籍を失っていたのとは、大きな違いがあります。

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【追記】2017年9月15日

豪州残り二人の審理開始

9月4日から14日まで、連邦議会が再開されていましたが、この間にフィオーナ・ナッシュおよびニック・ゼノフォンの二人についても、最高裁に付託がなされ、審理が開始するようです。現地の報道によれば、10月10日から12日に7人まとめての審理が行われるそうです。

これらの7人を含め、オーストラリアで二重国籍が問題となっている連邦議員のリストを掲載した記事を見つけました。
 http://www.abc.net.au/news/2017-08-19/who-is-who-dual-citizenship-scandal/8819510
もちろん、これらは連邦憲法44条1号の欠格事由に該当する疑いがあるからであり、「世界の常識」というような主張がまかり通る日本とは全く異なります。

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【追記】2017年10月28日

豪州最高裁の決定

昨日、オーストラリアの連邦最高裁 (High Court of Australia) が7名の連邦議員について、連邦憲法44条1号により当選が無効になるか否かを判断しました。結果は、下記の記事に分かりやすく紹介されています。
 http://www.abc.net.au/news/2017-10-27/citizenship-seven-rulings-winners-and-losers/9050222

それによれば、5名の議員は、当選が無効となりましたが、2名の議員(マット・カナバン上院議員=資源・北部担当相、ニック・ゼノフォン上院議員)は失職しませんでした。その理由は、彼らが二重国籍ではなかったという事実が認定されたからです。残りの5名のなかには、自分が二重国籍であることを知らなかったと主張した者もいますが、それにより連邦憲法44条1号が適用されない、という制限的解釈は認められませんでした。今後は、憲法改正の議論が一層高まることが予想されます。

この最高裁決定の政治的な影響については、わが国の新聞でも報道されているので、割愛します。ただ国籍法の観点からは、2名の議員が二重国籍と言われ、議会から最高裁に事件が付託されたにもかかわらず、二重国籍の事実がなかったとされた点が注目に値します。すなわち、それだけ二重国籍であるかどうかは、判断が難しいということです。その点からも、二重国籍を議員の欠格事由とする連邦憲法44条1号は、わが国の立法にとって反面教師と言えます。

なお、緑の党の2名の議員は、すでに辞職しており、これを潔いとか、他の議員は潔くないというコメントが日本のネット上で流れていますが、的外れです。連邦憲法44条の欠格事由があると認定された場合は、当選の日にさかのぼって議員資格が無効となるので、その間の議員活動の効力が問題となったり、議員報酬などを返還しなければなりません。早期の辞職は、影響を少なくすることには繋がりますが、「潔さ」とは無関係です。さらに、連邦憲法44条1号のような規定のない日本の国会議員について、オーストラリアの議員辞職を見習うべきだという書き込みも見られますが、全くの的外れです。

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