私の関心の中心は英語のアクセント・強勢の体系にあり、現在は特にアクセントの中間的段階の位置付けについての問題を検討しています。一見問題がないようでいて、実はこの部分には未解決の問題が潜んでいるのですが、いわゆる機能語の弱形の生起がそれを解決するためのヒントの1つになるはずだと睨んでいます。そのような問題意識から、 Rudolf Obendorfer, Weak Forms in Present-Day English (Oslo: Novus Press) などを参考に、朗読音声や、アメリカ・オハイオ州立大学で構築された自発音声コーパスである Buckeye Corpus of Conversational Speech の発音を調査中です。発展的には、英語の自発音声全般で起こる音声・音韻現象の記述を視野に入れています。
日本人の英語発音の特徴について、色々語られることは多く、英語音声学の教科書にも書かれていますが、あくまで経験則的観測によるものであり、体系だった客観的調査に基づくものではないという問題があります。音声資源コンソーシアムから提供されている「UME-ERJ 日本人学生による読み上げ英語音声データベース」(http://research.nii.ac.jp/src/list/detail.html の10a。「英語学習者音声データベース(English Learners' Speech Databese)」とも)を音声表記に書き起こしたコーパスを構築し、それを基にして実態を探ろうというプロジェクトです。
日本において、英語音声学は研究者の人材不足が深刻で、例えば大学で英語教員を養成するために必要な専門科目を担当する人手が足りないだけではなく、この分野の次代を担うべき研究者の養成にも事欠いているのが現状です。また、一般音声学も、言語研究を行う上での重要な基礎知識であるにもかかわらず、十分に正しい知識が普及しているとは言いがたい状態です。
この状況を少しでも改善するため、学会活動・Webサイト運営・著述活動などにより英語音声学・一般音声学の普及を図っています。実際に教壇において英語音声学を教える一方、自分自身では直接教えることのできない多くの学生や現役教員・研究者に裨益するための、英語音声学の教材作成に取り組み、その第1弾として2005年7月に『日本人のための英語音声学レッスン』(大修館書店)を刊行しました。次のステップとして、アメリカ人学者の協力を得て同書の英語による増補版を作る構想を持っています。将来的には、一般音声学においてもこれを行うことを視野に入れています。
また、他分野、殊に工学系分野の人たちによる、英語の発音に関係するシステムの開発の動きがあれば、できる限りこれに関与し、健全な内容の英語音声学に立脚したものが作られるように支援します。更に、この協力関係から得られる知見を、英語音声学にフィードバックします。
潟fンソーによる英語地域発音の収集に協力した関係で、方言区域は網羅されていないものの、同じ条件で録音された、いわゆる standard lexical sets に基づいた単語セットのリスト発音のデータの使用許諾を受けています。このデータ(現状はイギリスとアイルランドのみ)を活用して、英語の地域発音の実態を、データの許す可能な範囲で明らかにしようとしています。
どちらかと言えば、東京外国語大学を卒業して英語学分野を専攻している者の宿命としてやっているに近いですが、英語学習者にとって最も身近な教材である「辞書」における発音表記を、より妥当で分かりやすいものにしていこうという構想を持ちながら仕事をしています。できるだけ早くの実現を目指します。