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アメリカ経済論Ⅰ

2 企業経営の歴史的変遷




1 20世紀初頭;大企業の成立


(1)企業合同ブームと大企業の成立
○アメリカ史上4回の企業合同(M&A, Mergers and Acquisitions)ブーム
第1次ブーム(1890年代~1904年)     ┐
第2次ブーム(1920年代)          ┴→主要部門で寡占体制が成立。
第3次ブーム(1960年代後半~70年代前半) ─→コングロマリット化(多角化)
第4次ブーム(1980年代半ば~)       ─→リストラクチャリング

【アメリカの4大M&Aブーム】
M&Aboom

○大企業の成立事例
<石油産業> スタンダード・オイル社
1859年 ジョンD.ロックフェラーは石油精製企業を設立。次々と競合他社を買収あ るいは安値
 │  攻勢をかけて廃業に追い込む。1980年には傘下企業約40社で精油部門で90%のシェア。
1882年 トラストを結成。
 │   →1892年 オハイオ州の最高裁でトラストの解散命令。
1899年 持株会社スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー社を設立。
 │   →1911年 司法省反トラスト部の追訴により連邦最高裁で持株会社の解散命令。
以後、ロックフェラー系約40社は石油産業で相互に競争しつつ協調関係を維持。
この中から7大国際石油企業の内の3社エクソン、モービル、ソーカルが育つ。

<鉄鋼産業> USスチール社
1973年~ 長期不況により企業統合が進展。1890年代後半には地域レベルの統合 企業成立。
1901年 当時の3大鉄鋼企業が合併してUSスチール社が設立された。
     ・カーネギー・スチール社(ピッツバーグ)─┐
     ・フェデラル・スチール社(シカゴ)────┼→USスチール社
     ・ナショナル・スチール社(オハイオ)───┘
☆「ピッツバーグ基点価格制」1904~1921(一部中止)~1924(連邦取引委員会中止命令)
  鉄鋼製品の受け渡し価格=ピッツバーグ基準価格+鉄道運賃
                 └USスチール社が決定し、他社はこれに従った。

<自動車産業> ゼネラル・モーターズ社
1897年 オールズ・モービル社創業────────────┐
1902年 キャディラック社(別会社から社名変更)─────┤
1903年 ビュイック・モーター社創業           │
1908年 ビュイック社、ゼネラル・モーターズに社名変更。 ↓
→オールズ、キャディラック、エルモア、オークランドなどの自動車メーカーを買収。
1911年 シボレー社創業。
1916年 ゼネラル・モーターズ、シボレーを買収。GMの基本体制完成。

○大企業が形成された背景
①全国市場の形成
産業革命(19世紀前半、繊維産業で大量生産)
流通革命(19世紀後半、鉄道敷設、通信の技術革新)〜西漸運動の完了〜
②金融ネットワークの形成
地方の銀行がコルレス制度(相互に口座を設置)で全国的なネットワークに。
証券市場の発達。投資銀行業務の発達。
③重化学工業の形成
鉄鋼業←1855.ベッセマー転炉製鋼法、1872.カーネギー、製鋼会社設立、
石油←1859.油田発見(オイルラッシュ)、1865.ロックフェラー、石油会社設立
化学←1866.ダイナマイト発明、デュポン社が大量生産、1928.ナイロン発明
輸送機械←1876.内燃機関発明、1885.自動車発明、1914.フォードシステム確立
電気機器←1877.電話機・蓄音機発明、1879.電球発明、1880.発電機発明

└→重化学工業の大量生産は巨大設備(莫大な固定資本)が必要。まかなえるのは大企業のみ。
  全国的市場、銀行の全国的ネットワークの形成により、これらの大量生産を目指す。
  証券市場の発達により、社会的遊休資金の集中や企業合併が容易になった。

(2)大企業体制(寡占体制)とはどういうものか?
○大企業の企業構造

〈変化のポイント〉

○独占資本主義(寡占体制、大企業体制)の成立

自由競争段階(19世紀) 独占段階(寡占体制、20世紀)
業界
構造
多数の中小零細企業が競い合っていて誰も市場を支配していない状態。   いくつかの部門で大企業が成立し、少数の大企業によって市場が占められてしまう状態。
部門内競争
価格競争
価格協調、開発競争(製品差別化)
取引
関係
対等な交渉
買い叩き、押し込み販売、互恵取引など
部門
移動
参入と撤退
多角化と集中化

○反トラスト法(独占禁止法)
独占の弊害を除去し、市場メカニズムを守るために独占禁止法が制定される。
法の制定 1890年 シャーマン法
     1914年 連邦取引委員会法、クレイトン法
     1936年 ロビンソン・パットマン法(クレイトン法の修正)
内容:抱き合わせ販売、価格共謀、差別的な価格設定などの禁止。
執行機関 司法省シャーマン法とクレイトン法を担当。
     連邦取引委員会クレイトン法と連邦取引委員会法を担当。

(3)企業統治(コーポレートガバナンス)
○企業を支配しているのは誰か
株式会社のステイクホルダー(企業の利害関係者)
1.株主   →配当と株価の最大化。
2.経営者  →高い報酬、社会的ステイタス、社内権力など。
3.従業員  →労働条件(仕事内容、給与、雇用保障、労働環境など)
4.取引相手 →取引条件(製品・サービスの質、価格、取引の継続性など)
5.地域住民 →地域経済の活力、住環境の保全など。
〜大企業になると、この内、誰の影響力が大きいかは自明ではなくなる。

コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance、企業統治)とは…
1.誰が企業を支配するか=誰の利害が一番尊重されているか。
2.どのような仕組みでそれが果たされているか。

○20世紀初頭の企業統治
8大利益集団(金融資本グループ)

特徴


モルガン・グループ
ロックフェラー・グループ



USスチール社、GE社、ニューヨーク・セントラル鉄道、アライド化学社、アメリカン・シガ レット社、AT&T社、デュポン社など          スタンダード・オイル社、ウェスチング・ハウス社、インターナショナル・ニッケル社、イン ターナショナル製紙社、オリン・マジーソン化学社、AT&T社、イースターン航空社など



J.P.モルガン商会、ニューヨーク・ファースト・ナショナル銀行、ギャランティー信託、バ ンカーズ信託など
チェース・マンハッタン銀行、ファースト・ナショナル・シティ銀行、エクィタブル信託など


モルガン家
ロックフェラー家

(4)19世紀末〜20世紀初頭の生産システムと労使関係
○大量生産システムとは
資本主義の生産様式=機械制大工業(機械制工場生産)
マニュファクチュア … 工場制だが道具と手による生産
  ↓<産業革命> 18世紀末~19世紀初 イギリスで最初の産業革命
機械制大工業    … 機械に基づく工場生産
しかし19世紀で機械制大工業が成立していたのは繊維産業ぐらい。
19世紀末の新興産業=重化学工業ではまだ「熟練に依拠した手工業」が中心。

○労務管理システム
親方ー徒弟制度。親方(熟練職人、親方)による間接雇用・間接管理。
企業経営者は徒弟の雇用や労務管理に口出しできない。「職長帝国」

○労働組合
1886年 アメリカ労働総同盟(AFL;American Federation of Labor)
サミュエル・ゴンパース委員長
職能別組合。白人男性を中心とした熟練工(職長・親方)の組合。
徒弟で修行して一人前になったと認められたら登録。
経済的要求(労働条件改善)に特化して、政治的発言は抑制的だった。
徒弟(未熟練工)は組合なし。職長によって雇用・管理され、労働条件も職長が経営者と交渉。



2 1930年代〜60年代;ケインズ主義時代の企業経営


(1)アメリカ的大量生産システムの成立
○テイラー・システム(科学的管理法)
 〜「職長帝国」に対する経営者の職場支配権確立の試み〜

<経過>
経営学者F.テイラーが提唱した「合理的」な生産管理法。
『ひとつの出来高給制』1895、『科学的管理法』1911

<仕組み>
1:作業管理
a)熟練の解体 ~職人の熟練技を誰でもできる単純作業に置きかえてい く。
「作業研究」:熟練技を単純な構成要素(単位作業task)に分解す る。
「時間研究」:その標準的スピードも記録する。
b)構想と実行の分離 ~経営者が生産計画を立て労働者は支持通り実行する。
「標準作業票」で作業内容とスピードを指示する。
2:賃金刺激
出来高払い制 + 割増し/割引き制度 
指示に従わせるだけの強制力がないため。

○フォード・システム
 〜加工組立産業における機械制大工業の成立〜

<経過>
自動車企業 Ford Motors Co. が開発した自動車の大量生産システム。
1903年 フォード社設立
1908年 フォード社、T型車(Model T)の生産開始。
 │  翌年には生産をこの一車種に限定。
 │  以後、T型車の生産方法の確立に取り組む
1913-15年 フォードシステムの全体像が確立。

<仕組み>
1.科学的管理法(テイラーシステム)
作業研究と時間研究による「熟練の解体」
標準作業票による「構想と実行の分離」

2.科学的管理法の機械化
専用機械→加工作業を固定して誰が作業しても同じ結果を得る
互換性部品→微調整なしで組み立てられる部品
流れ作業方式(ベルトコンベア・システム)→機械の自動進行性による作業の強制

3.賃金刺激は必要なくなり、時間給(週給)制に。
罰則あり。相対的に高給(当時の平均賃金の2倍)を出した。

図:自動車の最終組み立てライン(上:1930年代のフォード工場、 下:1980年代のGM工場)
fs1
fs2
fs3
fs3

○重化学工業の二大領域とフォード・システム
重化学工業=装置産業(素材生産)+加工組立型産業(完成品生産)
┌装置産業…装置(桶・管)の中での化学反応→大量生産が容易。
└加工組立型産業…手作業が多く大量生産が困難。フォード・システムがその困難を打ち破った。
→重化学工業で生産される耐久財の大量生産へ。

原料 鉱業(鉄鉱石、非鉄金属、石炭、石油)
 │
 ↓   ┌装置型産業…素材(鉄鋼、非鉄金属、ガラス、石油化学)
重化学工業│        ↓
 │   └加工組立型産業…完成品(自動車、家電、事務機器、精密機器、一般機械)
 ↓
使用 消費財 …「アメリカ的生活様式」(一戸建て住宅+家電+自家用車)
   資本財 …工場用機械、事務機器
   インフラ…舗装道路、高層建築、発電所・送電網、港湾・空港など

(2)ケインズ主義体制の成立 〜大量生産にみあった大量販売・大量消費の社会〜

○「喧騒の20年代(ジャズ・エイジ)」〜大量生産に見合った大量販売と大量消費
大量販売:「流通革命」
スーパーマーケット、デパート、通信販売、広告、消費者金融、割賦販売など
大量消費:「アメリカ的生活様式」「大衆消費社会」
自動車、摩天楼、ラジオ、レコード、電灯、洗濯機、掃除機、ミシン、電話、流行の既製 服、腕時計、レーヨンの靴下、缶詰・瓶詰めなど

○1920年代の好況=耐久消費財需要と住宅需要+株式ブーム
 1929年大恐慌
1.大量消費の基盤の狭さ=「中産階級」は少数の大企業労働者のみ。
→「アメリカ的生活様式」=耐久消費財(自動車、家電)の普及の範囲も限定。
 1920年代半ばにはそれらの普及も頭打ちになり始めていた。
2.そうした個人消費の限界を覆い隠して生産拡大を推し進めたもの。
a.大量販売システム(新しい流通システム、広告、消費者金融など)
b.証券バブルによる景気過熱。
中産階級上層の貯蓄┐
企業の内部留保  ┼→株式市場への投機→バブル→資産高価による活況
銀行の金余り   ┘
→実際には消費需要が頭打ちになっていたのに、流通・金融の動きがそれを覆い隠して生産を拡大させた。消費能力と大量生産のギャップを一気に 爆発させたのが1929年大恐慌。

○ケインズ主義体制の形成
1930sのニューディールから1950年頃にかけてケインズ主義体制が形成される。

  <主体別に分けた需要>    <それを実現するための条件>
  1:労働者による個人消費 ← 賃金と雇用の保障 ← 労働組合の承認・安定的労使関係
                 社会保障制度
  2:企業による設備投資  ← 金融緩和(投資期待収益よりも金利を引き下げる)      
  3:政府による公共投資  ← 財政支出  ※財政政策と金融政策はケインズ主義の2大政策
  4:海外からの需要    ← 国際通貨体制と貿易体制

              政 府……………………………………パクス・アメリカーナ
               │ケインズ主義政策          GATT体制
               ↓社会保障制度            IMF体制
      ┌──────────────────────┐    ドル散布策
     <企業>                  <労働者>
   フォード・システム     ─────→   労働組合の承認、賃金と雇用の安定化
  (供給サイド:大量生産)    大量販売    (需要サイド:大量消費)

(3)戦後アメリカ型労使関係:その形成史
1.1930年代の労働運動からの攻勢
[背景]典型的な古典的・デフレ型大不況の下で労働者の生活困難が急増。
中核的な産業部門=重化学工業で新しい労働運動が台頭。

①産業別組合の成立
1935年 AFL内部に産業別労働者組織委員会(CIO)を組織。
1938年 産業別組合会議(CIO;Congress of Industrial Organizations) として独立。
大量生産工業における新興の不熟練・半熟練労働者を産業別組合に結集。
傘下に全米自動車労組(UAW)、全米鉄鋼労組(USW)などを擁する。
②労働三権の確立
1935年 全国労働関係法(ワグナー法、National Labor Relations Act)
前文:労働者の団結権と団体交渉権を認めて雇用者と労働者の力の均衡を回復する。
労働者の権利を侵害する雇用者側の行為(5項目)の禁止
そのような行為に対する訴えを扱う機関として全国労働関係局(NRLB)を設置。
③大企業による労働組合の承認
1936-37年 大企業でCIO系労組が正規の交渉相手と承認される。
GM、UAWを交渉団体と承認。

2.第二次世界大戦期の労使休戦(1941-45年)
[背景]戦時統制経済=すべてにおいて戦争遂行を最優先する。
軍需によって高度成長・完全雇用が達成。


3.戦後再転換期(1946-50年):企業側の立て直し
[背景]米ソ冷戦の下で左派(ニューディーラーを含む)追放。
大企業の大量生産にとっての撹乱要因を排除。秩序ある産業体制確立。

①労働運動の規制
1946年 戦後労働運動の再燃
1947年 タフト・ハートレー法成立。
  • 不当組合行為(クローズドショップなど)の禁止。
  • スト前60日間の冷却期間の設定。
  • 労働組合の政治献金の禁止。
  • 労働組合役員への非共産党員誓約書の提出義務。
②レッド・パージ
1947年 トルーマン・ドクトリン(共産主義の脅威に対抗するとの宣言)
    非米活動調査委員会(1938年設置)がハリウッド映画関係者を召喚。
1950年 マッカーシー上院議員(共和党)「国務省職員の中に共産党員がいる」
→赤狩り開始。

(4)戦後アメリカ型労使関係:その内容
○基本枠組み
A.ブルーカラー労働者の場合
①ビジネス・ユニオニズム
経営者側に経営権(経営上の意思決定権)を認め、組合は労働条件(職務内容、賃金水 準、雇用/解雇のルール)を交渉する。

②パターン化された労使交渉

③獲得された労働条件
  • シニオリティ(勤続年数と結びついた雇用保証)
  • レイオフ(一時帰休)
  • AIF(Annual Improvement Factor)=生産性上昇に合わせた毎年の賃上げ
  • COLA(Cost of Living Adjustment)=インフレ率に合わせた賃金調整
  • 付加給付=賃金の他に、補完的失業給付、医療保険プランなど。

B.ホワイトカラー労働者の場合
①労働組合は基本的にない。自然発生的な雇用慣行。

②雇用保証:若年期は流動的。中高年になると終身職(lifetime job)。

③賃金体系:基本的に右肩上がり型の賃金体系。
定期昇給のある資格給(能力給、勤続年数)+査定
〜William H. Whyte『The Organization Man』(1995)によると、アメリカ大企業の伝統的雇用関係は「組織人を作る忠誠心型雇用契約(loyalty contract)」だと表現。

○特徴点の整理
①ブルーカラーとホワイトカラーの違い。
ブルーカラー労働省
ホワイトカラー労働者
労働組合あり。
職務給制度。横這い型賃金体系。
生産性やインフレ率による自動上昇。
労働組合なし。
職能給制度。右肩上がり型賃金体系。
査定により昇進・昇給。

②日米比較
よく「日本的雇用は長期安定的、アメリカ的雇用は流動的」というが、その区別は不正確。
日米の雇用関係の違いはむしろ以下の点にある。

○その機能

①雇用安定化と高賃金は高額な耐久消費財の分割払い購入を可能にし、大量消費→大量販売→大量生産を支える。
②「大量生産と大量消費」が円滑に進む限り、生産性上昇とコスト低減が可能なので、ある程度なら労賃コストが上昇しても吸収できる。
③労働者も大量消費=豊かな生活が実現される限りで「空疎な労働」に耐え、職場の秩序を乱すような反乱は行わない。
〜このように戦後の高度経済成長を支えるケインズ主義体制の構成要素として機能した。

(5)大企業の「経営者支配」(コーポレートガバナンスの変化)
○経営者支配論
1930年代〜1960年代には「銀行による大企業支配」「大富豪による大企業集団の支配」が弱まって「大企業は経営者 によって実質的に支配されている」という議論が増えてきた。
代表的文献

○要因
①株式所有の分散(株式の大衆化)
1920年代から中間階層にも株式所有が広がり、個人株主の数が増大した。
②金融規制の強化
1929年恐慌の教訓を受けて、1930年代には金融規制が強化され、金融機関の産業に対する影響力が弱まった。
③大企業の階層的経営組織の確立(内部昇進・内部労働市場)
1920年代〜1950年代に企業の巨大化に伴って「現場ー中間管理職層ー上級経営陣(トップ・マネジメント)」と いう階層的組織が確立。これにより経営者の内部昇進化が進んだ。
④戦後型労使関係の確立
1930〜1950年代に雇用関係に一定のルール・慣行が成立し、労働者・従業員の発言力が高まった。
⑤内部留保の蓄積
ケインズ主義体制が成功し、大量生産・大量消費による戦後高度成長によって企業の中に多額の内部留保が貯まり、銀行 などからの外部資金に頼る必要性が下がった。

○コーポレートガバナンスと労使関係の関係
所有者からの圧力が弱まると、経営者は相対的に労働者・従業員の声を聞きやすい。
とりわけ現場で労働組合による争議がある「従業員の利害を顧慮しながら資本蓄積を進める」タイプの企業経営(賃金の安定、雇用保証、企業内福 利充実)が傾向的に強くなる。

○補論;新しい銀行支配説
他方で、大手銀行信託部による株式所有と重役兼任制度により、企業は銀行から独立しておらず強い結合関係を持っている、という指摘もあった。



3 1980年代〜現代;新自由主義時代の企業経営


(1)高度経済成長とその行き詰まり
○高度経済成長
時期:アメリカで1941〜1970年、欧日で1950年代半ば〜1970年代半ば
   持続的で安定的な経済成長=大量生産と大量消費がスムーズに循環。
要因:大量生産 フォード・システムをベースにさらに機械化(自動化)を推進
 大量消費 ①個人消費 戦後型労使関係、社会保障制度
      ②設備投資 金融政策(管理通貨制度)+戦後復興
      ③インフラ 財政政策(公共投資)+戦後復興

○その限界
生産能力:設備投資は利潤追求を動機→生産能力増大には限界はない。
消費規模:個人消費は効用を原動力→その伸び方は逓減していく。
→いずれ供給能力が需要を恒常的に上回る時が来る。
→低成長経済へ(アメリカは1960年代末、欧日は1974年から)。

(2)低成長下での経営組織と生産システムの再編
○低成長経済と国際競争の激化
高度成長期=横並びの成長の時代 → 低成長期=優勝劣敗・弱肉強食の時代
競争力の強い企業は弱い企業の市場シェアを奪うことで成長できる。

      <日本企業>         <アメリカ企業>
1970頃                   コングロマリット化と多国籍化
1970s後半 「減量経営」
1980     └→強い競争力→集中豪雨的輸出→未曾有の経営難→工場閉鎖と人員削減
                 │              ★リストラクチャリング
                 ↓
1985            プラザ合意=円高
      多国籍化本格化                  ★リエンジニアリング
       1.アメリカでの現地生産────→日米企業の戦略的提携 │
       2.東南アジア諸国での生産・対米輸出          │
                                  ↓
1990s後半 IT産業の成長───────────────→★アウトソーシング
                                  |
      ITバブル─→大容量通信網敷設ラッシュ────────→|
                                  ↓       
2000年頃                         ★オフショアリング
                            (多国籍化+海外アウトソーシング)

A.リストラクチャリング(Restructuring)
事業構成の再構築。特に「選択と集中」の方向への再編。
    1. 国際競争で劣位にある事業分野の廃棄=過剰生産能力の廃棄。
    2. 生き残れる事業分野に経営資源を集中してそこを強化。

B.リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)
業務プロセス(研究開発―購買―製造―販売)を再設計して効率化。
その具体的方向は「日本的生産システム(トヨタ・システム)」をアメリカに適合的な形に修正しつつ導入すること。

B1.ベースとしてのトヨタ・システム
特徴:①フォードシステムがベース。
   ②個人間・部署間・企業間で職務責任の範囲が曖昧。「多能化」による相互浸透。
    →他人・他部署・他社の職務にも積極的に協力・関与する。有機的な結合。
    →ムダの削減。コスト逓減。


フォー ド・システム ト ヨタ・システム
工場内の作業者間

1 細かく明確に区分され、機械的に結びつけられている職務区 分。

2 単能工による個人作業。

3 技術者による品質管理。

4 在庫は確保する。

5 完全な「構想と実行の分離」

1 大雑把で曖昧な職務区分。
  緊密・有機的に結びついている職務。

2 多能工によるチーム作業。

3 作業者自身による品質管理(TQC)。

4 在庫圧縮(Just-In-Time方式)。

5 下からの改善提案活動(QCサークル)

部署と部署 開発-購買-生産-販売といった職能部門間で権限と責任が明確 で相互に重ならない。→職能部門のセクショナリズム。 開発-購買-生産-販売といった職能部門を横断する会議・情報 共有。→職能部門間の作業連携・同時並行化。
下請
関係
*もっとも価格の安いところに発注。
*短期的で疎遠な契約関係。
*多面的な能力(コスト、開発、品質管理、JIT配送)発揮を 要請。
*長期継続的取引関係。緊密な情報共有と同期化。
(社内のシステムを取引先にまで延長)

B2.アメリカの独自性1:IT投資
アメリカ企業がトヨタ・システムを導入する際の一番障害=日米での「働き方」の違い。
アメリカ人は職務範囲が明確でオンとオフの区別がはっきりしている。そうした企業文化のアメリカで従業員間・ 部署間・企業間の隙間を埋めて連携を緊密にするための情報共有のツールとしてのIT(Information Technology)。
IT=パーソナル・コンピュータ+通信ネットワーク(インターネット)

B3.アメリカの独自性2:アウトソーシング
これまで社内で行なっていた業務の一部を外部企業に委託(外注)すること。
委託先企業(下請企業)に対する管理=サプライチェーン・マネジメント

スマイルカーブ(付加価値は両端が高い)
21smile

C.オフショアリ ング(Offshoring)とは
1.海外生産(途上国・新興国に工場を移転して低賃金労働力を活用する)
2.海外下請(生産過程の一部を途上国・新興国の現地企業にアウトソーシングする)
その特色

→2000年頃からオフショアリングとして注目されるようになった。

(3)現代的労使関係へ
○労使関係再編の背景
戦後型労使関係:一面…労働組合の突き上げに対する譲歩。
        他面…それが個人消費を下支えするため容認。
もし、労働者の権利を承認しても個人消費需要を拡大しないのであれば、単なる高コスト要因。
低成長経済の下での激しい生き残り競争により、労働コスト削減の欲求はよりいっそう強まる。

○労使関係再編への動き
①労働組合への攻撃
②製造大企業の生き残り策(リストラクチャリング、リエンジニアリング、オフショアリング)

A.団体交渉で築き上げた条件の掘り崩し(1980年代)
○南方戦略
1970年代、労働組合の少ない南部に工場を移転。
背景;1970年代の職場の混乱。山猫スト、アブセンティズムなど。
→企業は産業社会学、職場関係論など重視。
○リストラクチャリングの影響
日本企業に押されて経営難に陥った大企業はリストラクチャリング=事業構造の「選択と集中」にともなう工場閉鎖・雇用削 減を断行。その際、経営側は「生産性の低い工場から閉鎖・売却する」と打ち出し、労働組合に譲歩を迫る。→「譲歩交渉(Concession Bargaining)」

1.無期限レイオフの頻発。→レイオフと言いつつそのまま復帰させない。事実上の解雇。
2.団体交渉における組合側の譲歩の頻発
譲歩の内容 ①賃上げ、AIF、COLAの放棄。
②日本的生産システムの導入(職務区分の簡素化、チーム制、提案制など)
○政府の態度
1981年、レーガン大統領はストライキを行った航空管制官組合(PATCO)1万3000人中1万1000人を解雇。         

B.IT化による事務職の熟練解体(1990年代)
○リエンジニアリングによるITの導入
リエンジニアリング=1980年代末〜1990年代前半に導入された日本的生産シス テム+IT化
ホワイトカラー職の内容(営業・経理・人事)=情報の収集・整理・加工・分析が基本。煩雑な作業を人手でやる+会社ごとのノウハウ→企業特殊 的な熟練→長期雇用だった。
IT化=ホワイトカラーにおける機械化・熟練解体。「長期的に能力形成する職」から 「いつでも人が取り替えられる職」になった。

ホワイトカラーにおける雇用慣行の変更の特徴
労働組合がないため、雇用契約は個人単位。
→①抵抗の方法がない。企業側の労務政策の変更だけで容易に変わる。
 ②新しい雇用慣行の枠組みが形成されない。個人ごとにバラバラでいつでも可変的。
雇用保証:いつ解雇されてもおかしくない状態。ストレス増大が1990年代半ばに社会問題化。
賃金体系:右肩上がり型賃金から業績給へ。
労働時間:長時間労働化。

C.グローバル化による職の減少(2000年代)
○オフショアリングによる職の海外流出
1990年代末のITバブルによる地球的な規模で大容量インターネット通信網敷設→2000年代には海外アウトソーシン グが急増→アメリカ国内の雇用減少。

労働組合によりいっそうの譲歩。
2000年代 付加給付(医療保険、退職年金)の減額容認。

※いわゆる「アメリカ的雇用」について

(4)現代アメリカの貧困問題の3つの様相
戦後アメリカ型労使関係の崩壊→大衆消費社会を支える「厚い中間層」の階層分解…ごく一部の上昇(ニューリッチ)と大部分の貧困化(ニュープア) へ→アメリカの「貧困大国」化。

A.非正規雇用(コンティンジェントワーカー)
○「コンティンジェント・ワーカー(Contingent Workers)」とは
a 独立契約労働者(独立の事業主という形式をとった労働者)
b オン・コール・ワーカー(企業が自ら登録名簿を持って必要に応じて仕事に呼び出す)
c 人材派遣労働者(人材派遣会社が登録名簿を持って企業の要請に応じて派遣する)
d 請負会社の労働者(仕事を請け負った企業が発注元企業に労働者を送る)
e 日雇い労働者(日本の日雇い労働者と同様)

○特徴
・雇用が保障されていない。
・一般的に給与水準が低い(一部、IT専門職など高給職もあるが)
・福利厚生手当(健康保険、年金など)がないか、限られている。

○規模
労働統計局の統計では雇用労働者の約5%だが、労働問題研究者や経済ジャーナリストな どの独自推計では25%程度。(cf.日本では約1/3に!)

B.労働力のサービス化
○製造業からサービス業へ
1991-2007年に就業者は製造業で4.0%ポイント減少、サービス業で5.2% 増加。
製造業は相対的に高賃金部門、サービス業は(専門・技術サービスを除いて)一般に低賃金部門。
→こうした労働力移動は全体として雇用所得の低下をもたらす。

部門別就 業者シェアの増減(% point)
emp-sec
部門別給 与・賃金水準         
income-sec
C.失業率の再上昇へ

unemp_rate

(5)株主価値重視の企業統治(コーポレートガバナンス)
○機関投資家の台頭
1980年代以降、企業経営に対する機関投資家の影響力の増大
こういう変化によって企業経営に対する機関投資家の発言力が高まってくる。

資料:株式保有者の構成
stock

<機関投資家とは>
個人(家計)による株式保有ではなく、企業などの機関による株式保有。
代表的には、投資信託、生命保険、年金基金などがある。
小口の大衆投資家の資金集めて、専門家に運用を信託する。情報処理技術の進歩により、オープンエンド型(いつで も償還や追加発行 に応じ、ポートフォリオを組み替えられるタイプ)が広がる。代表例:ミューチュアル・ファンド
病気・事故に備えて個人が保険会社に掛け金を払う。保険会社はそれを運用して大きくし、病気・事故・死亡などが あった場合に規定の額を支払う。その運用において証券投資を行う。
個人が老後の年金基金に生活資金の積み立てる。通常は勤め先(企業等)が給与の中から 一部を差し引いて積み立てる。それを年金基金(民間企業。保険会社も入っている)が運用して大きくし、退職者に年々支払っていく。
a.確定給付型年金:老後の給付額が固定。積立から運用まで一切をおまかせ。
          長く勤め上げた方が有利な形になっている。
b.確定拠出型年金:運用方法(投資先)を積立者が選択できる。給付額は運用次第。
        転職してもそのまま移動できる。

○機関投資家の利害とは何か?
個人投資家の場合
キャピタル・ゲイン目的(投機)の人もいれば、配当目的(投資)の人もいる。
後者は長期的安定的に配当が継続されれば納得する。
機関投資家の場合
背後に資金提供者がおり、資金提供者をめぐって機関投資家同士が競争しているため、短 期間の運用で収益をあげなければならない。→配当ではなく株価の動きを重視。

○機関投資家の影響力の行使方法
1.株式売却
配当・株価の上昇につながらない企業の株式を売却することで圧力をかけていた。

2.経営介入
ますます大量の株式を機関投資家が保有するようになり、株式売却によって株価下落する と自分の資産減少となるため、1990年代初頭には直接的に経営介入する事例が増えた。
<関与ルート>
1.株主総会
・株主提案:株主総会で議案を提出すること。提案の案件の推移
・議決権行使:株主総会で議案に対して賛否の投票を行うこと。
2.取締役会による経営陣との直接の対話
経営陣の進退について発言する機関投資家が増大。
<具体例>
カルパース(カリフォルニア州職員年金基金、アメリカ最大の年金基金)の事例
1992~93年、GM、IBM、コダックなどの大企業のCEOが 相次いで解任。
1993~94年、GMが「取締役会のガイドライン」を発表。
~取締役会(投資家の代表)に経営陣に対する強い監督機能を持たせるもの。コーポレート・ガバナンスの「マグナ・カルタ」と呼ばれ た。
~年金基金カルパースはこれを高く評価し、大企業300社に同様のガイドラインを採 用 するよう提案。

3.ストックオプション制度(employee stock option)
会社の役員・従業員が、一定期間内に、あらかじめ決められた価格で、自分の会社から自 社株式を購入できる権利。この権利を役員・従業員の報酬として支払う制度。
→経営者の利害を株主と一致させる効果を生む。

○「株主価値重視経営」
株主価値=株式配当+株価上昇分
 └これを引き上げるため、4半期ごとの財務報告のたびに良いニュース(経営上向き予報)を発表しなければならない。
→雇用削減という短期間でコストカッ トできる方法を安易に採用する傾向へ。
大企業の経営が株主価値重視になることと労使関係の変容(労働者の権利の後退)とは表裏一体に進行した。


補論;1990年代に語られた日米企業のタイプ比較
○通説
1 日本企業とアメリカ企業は下の表のような違いがある。
2 日本では市場が機能していない。
3 だから日本企業は効率が悪い。効率的なアメリカ型に改めるべき。

    
日本的経営(1990年代半ばまで)
アメリカ的経営          
株式所有
企業集団による株式相互持ち合い。
→株価を気にしなくてよい。
個人投資家+機関投資家。
→高株価維持が必要。
経営者
経営者社内からの出世か、創業者家族から。 ヘッド・ハンティングでの移動が多い。
従業員
終身雇用制。
年功序列型賃金。
流動的な雇用関係。
能力主義・実績主義の賃金。
取引先
長期安定的な取引。密接な関係。 流動的な取引関係。疎遠な関係。

この通説は
1 不正確で極端な整理。
2 このような特徴がアメリカで顕著になったのは1980−90年代のこと。
3 評価が二転三転している。1980年代は日本的経営賛美論、1990年代は時代遅れ論。
→1990年代半ば=財界が日本的経営を変え始めた時期。その意向が通説に反映されている。