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テーマ・解題

2年生テーマ
ブレグジットの公共選択的意義


2年生テーマの解題

  2016年6月23日に行われた英国の国民投票は残留48.1%、離脱51.9%の結果となり、英国の欧州連合(以下EU)からの離脱の方針が決定されました。報道機関の予想も裏切り、この結果がどれほど予想外であったことかは、その後の金融市場の相場の振れ方が大きかったことからもわかります。国民投票という直接民主主義のツールにより不完全なEUの各種機構、付加価値税率や些末な規制を押し付けるEU官僚主義と決別し英議会制民主主義に主導権を奪い返したことには英国民も一定の意義を感じていると見られていました。 国民投票を実施したキャメロン政権は終焉を迎え、本人自身はむしろ残留派であったメイ首相が後継となり、英国のEUからの離脱、いわゆるブレグジットを推進しました。
こうした背景には長年の軋轢に加えて欧州危機などを経て、EU本部のあるブリュッセルの官僚達、EU司法裁判所への英国保守層の反発、2004年以降のEUの東方拡大によるポーランド他の労働者の流入に対する英国労働者の反発などがありました。格差拡大の中で世論は錯綜しました。
 実際に離脱に向けたプロセスに入ると国民投票時のEU残留の際のコスト計算が過大であったこと等が判明しました。アイルランドとの国境管理が難しいこともあり、混乱はさらに大きくなりました。製造業は工場を移転させ、欧州の金融の中心シティから拠点を移す金融機関も増えました。EUからの離脱協定案の内容を巡り、協定を結んでからの段階的な離脱をする「ソフトブレグジット」、協定なしの離脱をする「ハードブレグジット」、国民投票のやり直しなどの意見を巡り、議会は紛糾し、時間を浪費しました。英国の中央銀行がハードブレグジットの経済へのマイナスの影響はリーマンショックよりも大きいという試算を出したにもかかわらず、結局当初の離脱時期である2019年3月に離脱案がまとまらず、EUに離脱時期を延期してもらっています。この解題の執筆時点では英議会は実効的な措置は何も決められていません。
 ブレグジットが決まったことが、EU域内のポピュリズムの勢いを増加させ、英国の議会の混乱を生むなど議会制民主主義の限界をも浮かび上がらせているなど、直接民主主義、間接民主主義、官僚制のどの決定システムも難しいというまさに公共選択の教材になっています。皆さんは政治的意思決定システム、金融財政政策他の政策がどうなるかという視点を持ち、この「ブレグジット」という題材を分析して下さい。

<参考文献>
(官僚行動について)
  黒川和美著「官僚行動の公共選択分析」勁草書房(2013)
(政策決定について)
  小西秀樹著「公共選択の経済分析」東京大学出版会(2009)
  川野辺裕幸・中村 まづる編著「テキストブック公共選択」勁草書房(2013)
(ブレグジットについて)
  須網隆夫+21世紀政策研究所編「英国のEU離脱とEUの未来」日本評論社(2018)


3年生テーマ

改正入国管理法の施行は,日本社会にいかなる変化をもたらすか


3年生テーマの解題

 2019年4月から、入国管理法の改正により、外国人の在留資格における「技能実習(特定技能)」が2つに区分され,「特定技能1号(一定の技能)」および「特定技能2号(熟練した技能)」が新設されました。
 これまで外国人の在留資格は,入国管理局によれば約30に分類され,その中の「技能実習」以外は,かなりハードルの高いものでした。特定技能1号は,これまでの技能実習資格で3年以上の技能実習経験者に付与される資格で,その後5年間の滞在期間が認められます。特定技能2号は,1号よりもさらに熟練した技能者に対して試験等の合格を条件に付与され,家族帯同も認められ,在留期間の更新も認められます。
 これら2つの在留資格により,今後の日本では外国人労働者の増加が予想されるので,産業界だけでなく社会の様々な分野で,そのメリット,デメリットが論じられています。メリットと考えられるのは,現在人手不足となっている産業分野での人材確保です。そのため,恒常的に人手不足となっている産業には大いにメリットがあると考えられています。 しかし,日本社会ではデメリットを論じる声も大きくなっています。1つは、特定技能2号では家族帯同も認められることから,それに伴う社会保障費の増加、彼らの子弟の公教育などです。もう1つは,2000年頃から一部の日本人による拝外主義(レイシズム)的な言動が拡大していることです。例えば,埼玉県のある市の公営住宅では外国人が増加するなかで,生活スタイルの差異から多くの摩擦が生じ,差別的言動が日常的に飛び交っていると報道されています。このような問題解決のためには,我々は多くのコストを負担しなくてはなりません。当然,新たに来る外国人労働者にもこのような問題が発生するでしょう。
 今回の入管法改正は,日本に新たな労働力をもたらすと同時に,社会をいかに調和させていくのかという問題を生み出します。このような状況を想定して,日本にいかなる変化がもたらされるのかを分析し,新たな政策提言をするのが今回のテーマです。経済の維持・発展と社会全体の調和をいかにとるのかは,公共選択のテキストで紹介される「共有地の悲劇」と似た側面もあると考えられます。
 各チームによる研究の独自性を最大限尊重しますが、研究における分析の手順は,第一段階として現状(2010年の技能実習生制度制定以降)の問題点を分析してください。第二段階として,今回の改正でその問題点がどうなるか(問題が解決されるのか,またはさらなる問題が発生するのか)を考察し,かつ政策提言をしてください。
 テーマが大きいので,幾つかヒントを示しておきます。まず,どのように変化するのかは,まだ起こっていないことなので,未知のことです。そのため、第一段階としては,現状の外国人労働者に関する問題点を分析するのが重要となります。例えば,これまでの外国人労働者の数が適正であったのか否か,彼らの人数がGDPにどの程度寄与しているのか否かも重要だと思います。そして外国人労働者が居住することにより,どの程度の社会保障費が必要なのかも重要です。これ以外にも,問題点は多くありますから,よく考えてください。
 第二段階としては,今回の入管法改正により,第1の点で考えた問題を解消することができるのか,そして新たに発生する問題をどのように対処して日本人と外国人労働者の間に起こる問題に対する最適解を求めるかです。例えば,外国人労働者には受け入れ定数があるので,その最適配置が問題となります。また,拝外主義的言動やレイシズム的な言動を抑制し,多文化共生社会を維持するためのコストを誰がどのように負担するのかも問題となります。
いま述べたヒントは,あくまでも例として示しただけです。参加する学生諸君の視点で現状の問題を捉え,そこから新たに起こる問題を推察して,研究してください。
 最後に付け加えておくことがあります。よく言われることですが,この改正により日本に来るのは,ロボットみたいな労働者ではなく,来るのは人間だと言うことです。


<参考文献>
 『現代思想04新移民時代 Vol.47-5』(2019)青土社.
 ジョージ・ポージャズ(2018)『移民の政治経済学』(岩本正明訳)白水社.

 最近は移民,外国人労働者に関する研究書,文献は多くあるので自身で探してください。『現代思想04』は,外国人労働者に関して様々な分野の専門家が論じているので,是非目を通してください。研究の視点が多くあることに気付くと思います。また,差別などを経済学的に研究した嚆矢としてはゲイリー・ベッカーがいます。これらをもとに隣接諸科学の知見も取り入れると、より深い研究ができます。

<参考HP>
入国管理局
  http://www.immi-moj.go.jp/hourei/h30_kaisei.html
平成30年8月時点での在留資格一覧:
  http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/kanri/qaq5.pdf。

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第22回 
公共選択学会 学生の集い

2019年12月14日・15日
中央大学 多摩キャンパス