新刊紹介


山内祥史著『太宰治著述総覧』

               渡 部 芳 紀


 待望の書がまとめられた。本書は、書簡以外の太宰の全ての文書と発言に関する翻刻状況の記録である。著者三十年間の書誌的研究の集大成である。
 基本的には、「表題」「初出」「収録」「同時代評」「付記」の構成からなっている。個々の、記録の正確さは、こうした仕事の命だが、著者の仕事は、著者 の誠実篤実な人柄がそのまま表れていて信頼性は他に例を見ないほどである。そうした、正確さの上に太宰の全発言が記録されたのは驚異に値することで、太宰 研究をする者にとりこれほどありがたいことはない。
 また、本書の実質上の中心となる、「同時代評」は大変ありがたい仕事で居ながらにして当時の作品の受け取られ方が把握できる。
 今回、本書にまとめられたものは、一九七三年から一九八八年まで「神戸女学院大学論集」に連載されたものである。それらは、早くから私たち研究者にとり 必携のものであった。研究する上でこれほどありがたい書物はなかったといっていい。あまりに便利で、自分だけが恵まれているようなやましさを感じながら利 用させてもらっていた。また、学生にはあまりに便利なゆえに教えたくないようなそんな成果であった。今度、一本に纏められたことにより、自分だけがめぐま れているやましさからは解放されそうである。ただ、太宰以外の研究者に対しては、太宰を研究する者は、山内氏のお陰でやはり恵まれすぎた環境のなかで研究 を進めることが出来るので、後ろめたさを感じざるを得ない。それほど、恩恵を受けることの多い研究なのである。出来れば、山内氏のこのような正確精緻な実 証的研究が他の作家に関しても纏められることを祈ってやまない。本書は、そうした書誌的研究の模範となるものである。

 著者には、他に、『人物書誌大系七 太宰治』(昭和五八年六月、日外アソシエーツ社刊)があり、太宰治に関する参考文献目録として欠かせない書となっている。さらに、筑摩書房版太宰治全集(1990〜1991)の各巻の「解題」が、作品中心の研究史と資料集を兼ねる働きをし、これまた必読の資料になっている。また、同全集の別巻には、それだけで、ゆうに単行本になるのではないかと思われる詳細で正確な「年譜」が付されている。これらを、合わせそろえることで、我々太宰治研究に携わるものは完璧な環境の中で研究に従えるのである。感謝の思いをいくら記してもあらしきれないほどである。山内氏の研究の更なる発展を祈って筆を置きたい。
(東京堂出版 1997年9月20日 B5版1150頁  定価3万2千円)
                   (わたべ・よしのり 中央大学教授)

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中央大学文学部文学科国文学専攻
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