Home学生之声>イベント報告 【李鋭さん座談会についての報告レポート/報告者:修士07年度生・遠藤佳代子さん】   
 2007年11月、中国山西の作家・李鋭氏が国際交流基金の招聘により来日しました。全国各地で講演会が行われましたが、中央大学では日本の中国文学研究者との交流を目的とする座談会が開催されました。

 講演会の前半では、まず李鋭さんの創作に対する考え方、どのようにして創作を始めたかという話を伺った。現役作家の執筆に関わる意見を聞くことができる機会自体多くはないけれど、今回は中国の歴史、特に文化大革命に関する認識の一端を伺うことができたという点で、さらに貴重な機会だった。

 李さんは、現代中国の作家たちが絶対に避けることのできない問題として文化大革命という「歴史」を挙げた。自分を文革で農村へ行った「知識青年」の一人として位置づけての談話は、非常に興味深かった。

 
旧中国の伝統は文革によって断ち切られたが、その後には革命の伝統というものが生まれていた。革命後、改めて西洋から「真理」を取り入れようと試みられたが、ポストモダニズムや構造主義はそれ自体に対して厳しい反省と批判を求めた。こうした伝統の喪失と真理の喪失という歴史的背景の中で、李さんは作家として自分自身を模索し、自分自身の執筆を始めたと言う。李さんにとって創作活動は自我の探求であると同時に、歴史の追及でもあるようだ。


質問に答える李鋭さん

 質疑応答で、方言を用いた創作についての質問を受けられたときには、「共通語=中央の言語に対して、方言=辺境の言語は遅れていてレベルの低いものだ」という偏見、凝り固まった考え方に反発する熱心なご意見を伺った。その際、ルターの宗教改革や中国の白話文運動を例としながら、現代のグローバル化した社会で英語以外の言語で創作する意義について話していただき、李さん自身の生々しい思考の跡を感じた。またその博識の一端にも触れた思いである。

 最近の作品については、神話「白蛇伝」を元にした『人間』という小説があり、それは夫人との共同創作であるそうだ。飯塚先生から共同創作とはどのようにして執筆を行ったのかという質問を受けて、李さんとご夫人の作家としての良好な関係を話していただいた。お互いに討論し合い、訂正を重ねる作業を行ったと話す李さんは、楽しそうな表情を浮かべていらした。

 質問に対しては常に率直で詳しい説明をしてくださり、中国作家協会の様子や出版事情、作品にしばしば登場する牛に対する深い印象の由来まで、本当に興味深く聞かせていただいた。

 

 講演会の後半では、著作『無風之樹』の朗読をしていただいた。リズミカルな口語で書かれていることがはっきり分かり、ある朗読会で「まるで詩のようだ」と評価されて嬉しく思った、とおっしゃっていたが、本当にその通りに音楽的な美しさを持つ作品である。この点では翻訳に限界があることが少々残念だ。

 農村を舞台としながら、老いや結婚、命について描く李鋭先生の作品はとても面白く、読み継がれる作品だと思う。農村を見る作者のまなざしは、自己と世界へと広がっており、一方的に啓蒙するのでもなく賞賛するのでもない。こうした作品の良さを、より多くの人に知ってもらいたいと思う。

 今回の講演会は私自身にとっても非常に意味のある経験となった。今後も李さんの作品に注目し、この経験をより深めていきたいと思う。

座談会の様子

Copyright©2005 中央大学文学部人文社会学科中国言語文化専攻