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 6月17日に東京国際フォーラムで開かれた張学友(ジャッキ−・チュン)のコンサートに行ってきました!(コンサートの公式HPはコチラ

 張学友といえば1990年代に香港の「四大天王」の一人として一世を風靡した大スター。今でこそ40代半ばのおじさんとなり、昨今の若い「華流」ファンにはなじみが薄いかもしれませんが、ロックからバラード、ミュージカルまでこなす抜群の歌唱力で世界中の華人に絶大な人気を誇っています。映画『ウィンターソング 如果・愛』で、金城武と一人の女性を争う役を演じ、劇中劇で美声を披露していた俳優、と言ったらわかるでしょうか。

ヒット曲の数々(榎本先生私蔵品)

「We Love You!」
「我們永遠全力支持你」
 今回の東京公演は「学友光年世界巡廻演唱会」と銘打たれたワールドツアーの一環です。当日有楽町の駅から会場に向かうと、すでにあちこちから中国語のさざめきが。カップルで、あるいはグループで、中国人たちがチケットを握りしめて興奮気味に歩いていきます。事情を知らない日本人は、なぜこの場所に中国人が集結しているのかわからない様子。東京の真ん中に突如出現した異空間のようです。もちろん日本のファンも負けてはいません。会場入り口には日本のファンクラブから送られた花がいくつも並び、ホールの最前列にはペンライトを手にした集団が陣取っています。

 ここで私の「迷mi」(ファン)歴を紹介しましょう。私が最初に張学友の歌に接したのは1993年、北京大学に留学していた時のこと。その頃街では至る所で、張学友の「吻別wenbie」(邦題:さよならのキス)が流れていました。当時まだCDは高価で庶民の手には届かず、人々は聞きたい歌があれば露天で安いカセットテープを買い求めました。売る人は番をしながら、ほこりをかぶったラジカセで好きな曲をかけ、自分もいい気分で一緒になって歌います。「それ何の歌?」「張学友さ!」こうして市場のおじさんも、労働者のお兄さんも、仕事をしながら「我和你吻別〜」と口ずさむようになりました。

 今から思えば「吻別」は、香港返還を目前に控えたこの時期、大陸のファンを意識して北京語で発表された意欲作でした(張学友はそれまで主に広東語で歌っていました)。ゆったりとしたバラードで、間奏には二胡のメロディーが入ります。切ない別れの歌、そして胸をかきむしられるような二胡の響き……大陸の人間ではない私も、すっかりはまってしまいました。

 1999年に張学友が日本公演を行った時、私はかつての留学仲間を誘って聞きに行き、初めて生で聞いた「吻別」に鳥肌が立ちました。「歌神」と称される張学友の歌声は本当にすばらしかった! この感動が忘れられず、今回のコンサートを知った時も即チケットを買いました。

 さあ、幕開けです。照明が落ちた途端、待ちきれないファンから大きな拍手。そしてジャッキーが登場するや「ジャッキー!」「張学友 Zhang Xueyou!」の絶叫が。最初はロックナンバーで年齢を感じさせない(笑)激しいダンス、バックダンサーたちも舞台を所狭しと動き回ります。舞台の両側には管楽器セクションやコーラスを含む大編成のバンドが並び、中央のスクリーンには音楽に合わせてさまざまな映像が踊ります。ところが残念なことにジャッキーの姿が映りません。準備のいい私はすかさずオペラグラスを取り出し、懐かしい彼の顔を拝みます。

 前回同様嬉しかったのは、曲の合間のトークがすべて日本語だったこと! しかもメモを一切見ず、暗記しているのです。

「ミナサン、コニチワ。スゴイデスカ?(スゴイデース!=観客)ワタシハ、ホンコンノカシュ、ジャキチュン、デス。キョウ、ハジメテ、ワタシノコンサート、ニ、キタ、ヒト、モ、ダイジョブ。コレカラ、ワタシ、ノ、コト、ヲ、ショウカイシマス。」

東京でも有数の広さを誇るホールです

 助詞に苦しんでいる様子がかわいい! つっかえつっかえの日本語でも、ユーモアにあふれた、暖かい人柄が伝わってきます。この数年間の活動を紹介しながら、それにまつわる歌を歌ってくれます。早くに逝った仲間(レスリー・チャンやアニタ・ムイを指すのでしょう)を悼み、永遠の友情を誓う歌。そして悲しみのあとに訪れた喜び――娘の誕生と、せがまれて書いた童話のようにかわいい歌。人生の「悲歓離合bei huan li he」がジャッキーの作品の大きなテーマであることがよくわかります。

 そしてまた、1990年代の懐かしい歌も惜しみなく披露してくれました。「ミナサン、オモイダスコト、ガ、アリマスカ?」もちろん、ありますとも! 私の「吻別」は、コンサートが佳境に入ったころ、北京語の代表曲として歌われました。二胡がなくて、他の楽器で代用されていたのが残念でしたが、ジャッキーの声は歌えば歌うほど艶が増し、会場いっぱいに満ちあふれます。伸びのある高音が心地よいのはもちろんのこと、低音にも男らしい凄みがあって、本当に人の「歌」を聞いている、という気にさせられます。



チケットも宝物のひとつに
 これまでいろいろなコンサートに行ってみましたが、人気アーティストほどお金をかけて大きな会場を使い、かえって音響や視覚上の効果に「歌」がかき消されてしまうのを残念に思っていました。また、日本の歌手はルックス、ダンス、トークなどさまざまなセンスが求められ、肝心の歌唱力が今一つということがよくあります。その点、中国語圏の歌手は依然として歌唱力が重要なファクターとなり、人々に愛される理由になっていると感じます。中でもジャッキーは声の質、量、表現力など全ての面で、正に「歌うために生まれてきた」人だと思わずにいられません。(ちなみに、近年聞いた中では、韓流の「バラードの帝王」シン・スンフンのコンサートがすばらしく、ジャッキーに匹敵する満足感がありました。)

 コンサートはミニ・ミュージカルを含む、盛りだくさんの構成。「そろそろ終わりかな?」と思ってからさらに一時間も続き、これでもか、これでもかとヒット曲が熱唱されます。そのサービス精神……もうどこまでが本編でどこからがアンコールなのかわかりません。なぜか通路を次から次へと人が駆け下りていき、舞台の際で立ったままジャッキーに手を振っています。どうやら熱狂した中国人ファンが自分の席を離れ、ジャッキーに接近しているようです。ジャッキーもそれを知って舞台を右に左にまんべんなく移動し、身を乗り出して彼らに応えます。

 

 そしてついに最後の曲を迎えました。「祝福」です。スクリーンに中国語の歌詞が映し出され、会場総立ちで大合唱となりました。

傷離別 離別雖然在眼前
説再見 再見不会太遙遠
若有縁 有縁就能期待明天
你和我重逢在燦爛的季節……

 中国人も日本人も、一緒に涙を流しながら歌っています。広い会場が地鳴りのような中国語に満たされています。何と不思議な光景でしょうか。色とりどりのペンライトが波のように大きく揺れ、舞台を去って行くジャッキーを送りました。また会う日まで……。

 本当に大満足の3時間。帰り道、電車の中であることも忘れ、思い切り歌を歌いたくてたまりませんでした。謝謝、張学友。我愛你!


コンサートの余韻をいつまでも

張学友のことをもう少し知りたいと思った人はコチラへどうぞ(亜洲明星総覧にリンクしています)

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