ホーム > 学生之声 > 旧「学生之声」目次 > イベント報告 【日本の現代文学は中国でどう読まれているか─大江健三郎、三島由紀夫を中心に / 報告者: 博士前期課程 08年度生・松広彩さん】  

許先生が手がけられた翻訳書
 2008年6月23日、中国社会科学院外国文学研究所研究員でいらっしゃる許金龍先生の講演会「日本の現代文学は中国でどう読まれているか」が行われました。

 今回は、村上春樹、三島由紀夫、そして許先生のご専門である大江健三郎の文学が、中国においてどのように受容されているかについての講演でした。


 始めに、村上春樹の文学が、現在中国の若い人々を中心に広く受け入れられている、というお話がありました。その背景には、村上文学の読みやすさはもとより、中国の社会情勢の変化に伴う個人の価値や個性に対する意識・感覚の変化があるようです。人々の関心が、改革開放を区切りとして、しだいに政治的なものから、個々の人間関係やストレス、孤独などの内面的問題に移っていることが、村上文学の幅広い受容を促しているということでした。

 一方、三島由紀夫は、三島の切腹自殺の情報が、文化大革命のただなかにある中国に伝わったことと、その独特な表現により、「軍国主義の復活を目指す作家」であるという認識が一般的でした。許先生はこれに対し、三島自身の生い立ちや心理に独特な文学表現の源泉を探る見解を示し、「軍国主義的」という認識に疑問を呈されました。作品に対する見直しが進むなかで、中国における三島文学の翻訳や紹介は、これから盛んになっていくようです。

会場はほぼ満席でした

参加者からの質問に

 つづいて、村上文学や、三島文学よりも早く中国に紹介された、大江文学についてのお話がありました。これまで中国では、作者自身の訪中や、ノーベル賞受賞を契機に、翻訳出版も比較的盛んに行われてきたようです。また、今後の計画として、全集の出版も予定されており、中国での大江文学に対する高い関心がうかがえます。

 また、許先生は、大江文学と中国の関わりとして、大江作品にあらわれる「根拠地」をめぐる展開に、中国の革命戦争や文化大革命、改革開放などの歴史的背景が投影されているという御指摘のあと、大江健三郎と魯迅との関連について紹介されました。大江文学の初期の作品から、近年の『さようなら、私の本よ!』までを貫くテーマの一つとして、「絶望からはじまる希望」があり、それは、魯迅が作家・思想家として持ち続けた姿勢から影響を受けたものであるということでした。

 

 現在の中国では、自己の内面にある不安や人間関係などの問題にフィットし、人々の共感をよぶ村上春樹の文学が盛んに紹介され、それが「ファッション」と呼べるほどにまで受け入れられています。そしてその一方で、著者自身、あるいは著者の身近な人物をモデルにしながら、現実にある社会的問題を強く意識し、またそこに希望を見出そうとする大江健三郎作品も広く受け入れられているようです。政治や社会と分かちがたく結びついた文学が主流を成してきた中国において、「私」を主に描いてきた日本文学がどのように受容されているのか、許先生の講演を拝聴して理解を深めることができました。


懇親会にて

 最後に、学生や先生方からの質問がありました。日本文学が中国人作家に与えた影響についてや、許先生御自身が日本文学に関心をもつきっかけについてなどの質問もありました。そして講演の後には、学生や先生方も交えての懇親会が行われました。和やかな雰囲気のなか、許先生の翻訳に対する真摯な姿勢や、日本文学に関する造詣の深さを感じることができ、非常に貴重な機会でした。
(2008年6月23日開催)

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