阿部成樹ゼミ(美術史ゼミ)では、議論と交流、そしてフットワークを用いて美術史と美術館の世界を探究します。


指導方針

教室と都内各美術館のふたつのキャンパスでの展開:教室での議論、発表と、学外見学を学修の重要な柱とします。
受身の座学ではなく、グループでの議論と企画立案・発表の実行を通じて自主的に学びます。
美術史と芸術文化についての専門的な知見を得るとともに、実社会への助走として自主性と協同性を涵養し、コミュニケーションの実践としてのプレゼンテーションやディスカッションに習熟することも目的としています。

‣『東進タイムズ』(2015年4月発行)掲載のゼミ紹介はこちら(PDF 3.5MB)

テーマ

‣西洋美術史:
美術の歴史は、ひとつではありません。「何世紀に何が現れた」という時系列に沿った年表は、美術の歩みを見出すための素材に過ぎないのです。この素材から材料を選んで編み上げることで、無限に多様な美術の歴史を語ることができます。
例えば女性像がどう変遷してきたか、空間の性質がどう変わってきたか、絵画の中で犬はどんな役割を果たしてきたか…あなたの視点に応じて、美術の歩みは変幻自在な姿を見せてくれます。歴史を学ぶとは、本来このようなものです。受け身に学ぶのではなく、創意工夫に基づいてひとつの物語を編み上げる楽しみを、ゼミと卒論で学びます。
‣美術館:
美術館は「陳列館」ではありません。もっとアクティヴな施設です。物言わぬ作品と来館者の橋渡しをするために設備と展示に工夫し、またアイディアを競ってさまざまな活動を展開しています。特に近年注目されているのは、「教育普及活動」です。子供から高齢者まで、健常者から障がいあるいは病気によるハンディを負った人まで、できるだけ広い範囲の観客に美術を楽しんでもらい、人生に豊かな時間を付け加えることを目的とする分野です。それは単なる「解説」を超えて、楽しめる教材を開発し、誰もが積極的に美術に関われるような企画を模索し展開しているのです。その場には、美術作品をめぐるさまざまな思いが交錯しています。
このゼミでは、こうした活動を担う学芸員の視点を知ることで、単なる受け身の「観客」の限界を超えて美術館を知り、体験します。このことは、社会に出てから美術館に限らずさまざまな分野で役立つでしょう。

議論する

このゼミでは、ゼミ生が主役です。「講義班」と「見学班」に分かれてそれぞれ議論を行い、テーマ設定や企画の実施にあたります。議論の様子は教員やTA(ティーチング・アシスタント:下の写真では左端)が見守り、助言します。

講義する

‣ゼミの「講義班」では、西洋美術史を素材に講義テーマを議論して設定し、前期末にゼミ生に向けてプレゼンテーションします。
‣後期に全5回程度の連続講義を組織します。スライド、配付資料を準備し、交代で講師やタイムキーパーを務め、実りある講義を目指します。すべて教員がバックアップします。

見学する

‣「見学班」で各年度の見学テーマと見学先(年間3館)を議論し、その結果を前期末にゼミ生に向けてプレゼンテーションします。
‣後期に3回の美術館見学を組織します。ゼミ生・見学先への連絡、事前のレクチャー、当日のオーガナイズ、事後レポートのテーマ設定などが見学班のタスクです。すべて教員がバックアップします。

招く

‣時に外部講師を招いてレクチャーしていただくこともあります。

つながる

‣共同作業を円滑に進めるため、Googleによるサービス(Gmail、GoogleDrive)などを利用して資料の共有、共同編集を行います。
‣お互いを知るために、新人歓迎会、各期末お疲れ会など定例の行事があります。
 

旅する

‣夏季休暇には、関東圏外へ見学旅行を行っています(自由参加)。詳しくは「夏季見学旅行」のページへ。

執筆する

‣3年次の期末には、その年のゼミ活動をまとめたレポートを各自提出します。卒論への準備も兼ねています。
‣3年次の末から、教員とマンツーマンの卒論指導を開始します。テーマ設定から資料集め、目次の組み立て、草稿執筆まで、共に進めていきます。途中、ゼミ内で構想発表、中間発表を行い、ゼミ生の意見を参考にします。
‣優れた卒論の要旨は、『中大仏文研究』(中大仏文研究会)に掲載されます。
‣2015年度の卒論テーマ:マネの空間表現と構図法/19世紀フランスのジャポニスム/ミュシャ:美術史的・現代史的背景/ブラックの絵画における自律性と現実の侵入/19世紀ヨーロッパ絵画におけるゴシック聖堂のイメージ/ドーミエの諷刺画に見る女性/ラウル・デュフィのテキスタイル・デザインと音楽描写/ジョルジュ・スーラの色彩と音楽の関係/グルーズの表情表現 -その意味と役割-/地域に根差したアートプロジェクトとは/ルーベンス≪毛皮を纏うエレーヌ・フールマン≫における裸婦表現
 

メンバー

‣ゼミ生は例年、3、4年生で20〜25名程度です。2017年度から履修する8期生は、10名です。

関連情報

‣おすすめ展覧会などの関連情報は、Google+のゼミページに掲載しています。こちらもご覧ください。阿部ぜみ

 

ゼミ卒業生からのメッセージ 〜時を超えてつながろう〜

‣6期生(2016年度卒業)

‣前原佳奈さん((株)ルック
 「美術史ゼミ」と聞くと、芸術家や美術の歴史を学ぶ座学を想像される方が多いと思いますが、このゼミの特徴は、研究対象が「美術館」であるということ、それに伴い大学外、いわゆる公共の場に出る機会が多いという点です。
 おそらく今までは、美術館へは絵画を鑑賞するためだけに訪れていたことでしょう。しかし見学班にとっての美術館を訪れる目的は、館内の構造や美術館側の運営、規模や立地条件といった作品を取り囲む環境に目を向けることです。私たち見学班6期生は「美術館の親しみやすさとは何か」というテーマを掲げ、世代・嗜好問わず誰もが訪れたいと思う美術館像について研究を進めました。
 その結果、それぞれの美術館で「親しみやすさ」を観客に与えるアプローチが工夫されていることがわかりました。例えば、カフェの併設やイベント企画、スタッフ数や館内のレイアウトなど、取り扱う作品に合わせてより来館者の満足度を上げる工夫が美術館ごとの条件に従って徹底されています。美術館という空間そのものに焦点を当ててみることが、より深い作品への理解に繋がっていくのです。
 この研究がキッカケで、美術館に限らず外出する先々で、そこにある‟モノと空間”に目を向ける習慣が身につきました。そしてその習慣が私の就職活動でも非常に役に立ちました。空間プロデュースのアートフリーク社にも関心があったのですが、私は元々ファッションに興味があったことから、アパレル企業への就職を選びました。中でもMD(マーチャンダイザ―)という企画側の仕事に入り、商品だけでなく店舗も考案していきたいという将来像を持っており、実際に店舗に足を運び商品や店内のレイアウト、販売員の対応について比較・検証を進めていました。そこで気付いた点は面接での対話をより充実させ、興味を持って耳を傾けて下さる方が多かったです。結果、念願の企業から総合職として内定を頂くことができました。
 この‟モノと空間”に目を向ける習慣はアパレル企業に限らず、様々な企画の場面に繋がっていくものだと思います。美術館を出発点として、人々が集まる公共の場で感じたことを互いに出し合い、新たな視点に立つことができる阿部ゼミでの活動は、大学生活の中で最も印象に残っている出来事の一つです。

(右:前原佳奈さん/左:福元真澄さん)

‣福元真澄さん(三鷹市役所
 皆さんは、絵に見方があるということをご存知でしょうか。美術史ゼミは、絵の見方を学ぶところからスタートします。これは、好きな部分だけ見ていてはダメというわけではありません。見方を変えれば、一つの作品をもっと深く理解することができるのです。客観的な見方で見てみたり、この絵が描かれた時代や、モチーフに注目したり、見方が変わればアーティストの隠したいろいろなメッセージに気づくことができるのです。この体験は、絵画鑑賞のみに留まらず、様々な場面において物事を多角的に捉える力を養うことができます。
 作品観察の仕方が定着してきたら、このゼミでは見学班と講義班の二つのグループに分かれて活動を行います。見学班は、年三回行われる美術館見学を取りまとめ、見学先の美術館や作品のリサーチをし、講義班は自分たちの研究したいテーマにフォーカスして美術史を研究していきます。その際、両班とも研究結果を発表するのですが、美術史ゼミのすごいところはその質問力です。発表をただ聞いているのではなく、もっと追求して研究すべき点、腑に落ちない点、などなど率先して発言をしています。これは、授業ではもちろん、就職活動のグループディスカッションにも生かせる点だと思います。また、ゼミで活動を続け美術の知識が増えれば増えるほど、質問の質が上がるので、発表のレベルも上がっていきます。
 さて、私は見学班に所属していたのですが、見学班では常設展や見学する時期に開催している企画展について調べるのももちろんですが、美術館の施設そのものや、そこで行われるサービスについて学んでいきます。そのため、建築について学ぶことができますし、子どものためのプログラムや、バリアフリーという観点からも美術館を見ることができるのです。そのため、社会・生涯教育について学ぶこともできるのがこのゼミの強みです。
 このゼミでの経験に影響され、美術館のように様々な人々と関わり、サポートができる仕事に就きたいという思いから私は公務員として現在働いております。その上、美術史ゼミに所属していた経歴があってなのか、同じ社会教育施設の公立図書館に勤務することとなりました。今後は、ゼミで学んだモノの見方を生かして図書資料を選別したり、施設・サービスの工夫を自分の現在の職場に置き換えたりしていきたいと考えています。そういった意味では、美術史ゼミは幅広い職種に生かすことのできる力を養える場であったと思います。

‣5期生(2015年度卒業)NEW
‣佐伯綾香さん(福岡銀行) ー“ 新たなわたしを見出してくれたかけがえのない場所です”
 「美術」と聞いてどんなことが浮かぶでしょうか。敷居が高い、近づきにくい、よくわからない…「コアな人の嗜み」という印象を持つ人も多いでしょう。美術に触れずとも、生活に困ることはないのです。きっかけがなければ、その世界を知らずに人生を終える人もいるかもしれません。
  私が初めて美術と出会ったのは、物心ついたころ。たまに家族で美術館を訪れていました。思い出深いのは、帰りの車の中の空気感です。思い思いの感想を打ち明け、共有しました。「お母さんにそっくりな女の人がいた!」家族に重ねて絵を観察したこともあったそう。声が弾み、笑顔で溢れ、車内は幸せな空気に。幼いながら、その時間が好きだったのです。
  知識も教養もなく、作家に詳しいわけでもありません。昔の記憶がよみがえり、飛び込んでみたいという直感に導かれるようにしてこのゼミに入りました。
  ゼミ活動では、時代背景を含め作品の着眼点を学ぶ講義と、社会とのつながりを直に感じられる実践活動とがバランスよく組み合わされていました。中でも、美術館見学に訪れる時間は、学びの連続でした。自分の目で見て、人から話を聴いて得たものを糧に、仲間と共に考察を深めます。感じ方や切り取り方は様々です。正解のない問いに対し、考えを持ち寄り見つめる時間はとても有意義なものでした。大学では、就職戦線を勝ち抜ける専門性を磨くべき、そんな考え方もあるでしょう。しかし、それがすべてではないかもしれないと思わせてくれる瞬間に出会いました。作家の意図をくみ取ろうと、作品に向き合う時間。地域社会におけるアートの可能性を考える時間。どの活動の根底にも、他者を慮る姿勢が表れています。人として大切なことが詰まっていたのです。「感性が磨かれていく」実感があり、その感覚が自分を突き動かす源になっていました。
  卒業後も、美術や芸術への関心は深まっています。室内外を問わず、空間全体からエネルギー溢れる美術館が大好きです。非日常をゆっくりと味わう時間は、贅沢だと感じるのです。日々を生きることに一生懸命で、自分を客観視するのが怖いってこと、ありませんか。私は、感じるときがあります。このまま過ごしていたほうが楽だなあ。でも、心の中では見つめたほうがいいという自分がいる。そんなとき、私は、美術館という空間を無意識に求めている気がします。作品と向き合うとき、一瞬かもしれないけれど、自分がまっさらな状態になるのです。抱えているものが浄化されたような気持になって。そしてじっくり見つめてみると、過去の出来事がよみがえってくる。お世話になった人の顔が浮かんだり、当時の感情を思い出したりして胸が締め付けられて。全く関係のなさそうな絵なのに自分と重なる、とっても不思議な感じです。でも、その時間が心地よくて。今ある自分に感謝できることが多々あります。もし隣でだれかも一緒に見つめているなら、ぼそっと思いを吐き出してみるのもいいです。思いもよらない連鎖反応が起きることもあります。
  自分の気持ちに正直になり、誰かに伝えてみる。人と人とのつながりの希薄さが顕著なこのご時世の中、私はとても大切なことではないかと思います。テレビや新聞で日々報道される痛ましく悲しい事件、その根底にあるのは「認めてもらいたい」「自分を大切にされたい」という人間の欲望そのものだと思います。周囲に打ち明けられていたら救える命があったかもしれないという例も後を絶ちません。世の中に生きる人が、自分を愛し、他者を思いやれる心の持った人でいっぱいならば、社会は少し変わるかもしれません。そして、そんなきっかけが美術や芸術を通して作れたなら、と私は思う瞬間があります。人が生きていく中で、芸術が作用できることもあるのでは。そう思うと、目に映るもの、人との出会い、何気ない日常も、すべてが考えるすべになります。誰かに与えられたからではなく、自らの興味に突き動かされる日々は充実しています。
  ゼミ活動の時間が、人生を通して考察したいテーマとの出会いになりました。限りある人生の中でそうした興味に出会えたことは、幸せなこと。大切にしたいと実感しています。感謝の気持ちでいっぱいです。少し気になった方、ぜひ門をたたいてみてください。美術史ゼミが長きにわたり続いたならば、いつしか年齢の垣根を越えて同じ時を共有できる日が訪れるかもしれませんね。その日を楽しみに、今日もまた好奇心をもって実りある時間を過ごそうと思います!


‣4期生(2014年度卒業)

関根美穂さん(建築デザイン関連会社〔東京〕勤務)
 美術史ゼミでは、まずは絵画を観察することからスタートします。
 絵画をみてきれいだな、色合いが素敵だな…といった芸術鑑賞とは異なり、もっと深くまで観察できる基礎の部分を身につけていきます。観察するとは、深く細かく観ていくことです。例えば、2枚の人物画を比較します。1枚目の人物の肌は、筋肉の付き方や血管までリアルに描かれていて、2枚目の人物の肌は、陶器の様に滑らかで、人間味の感じられない、冷たそうな肌という風に、時間をかけて観察していきます。そこから、当時の社会背景との繋がりを学んだり、特徴を読み取ったりすることができます。私はゼミに入るまで、絵画の表面的な部分しか見ていなかったことに気づきました。観察力を鍛えていくと、絵画を観て、様々な疑問や気になる部分が見えてきます。すると、気になったことを文献で調べて見たり、同じ時代の作品と比べてみたりと、自然にもっと知りたくなるのです。美術館で作品を観ることが楽しくなっていくのを、少しずつ実感しました。
 観察の基礎を身につけると、いよいよ講義班と見学班に分かれます。
 私が所属していた講義班では、「人体表現の変遷」をテーマに、研究していきました。時代毎に担当を割り振り、テーマに沿って文献等を用いて研究していきます。最終的には、皆にプレゼンテーションをします。講義班では、ただ美術史の歴史を学び、それを発表するのではありません。テーマを絞ってグループでディスカッションし、どうしたら皆に理解してもらえるのか考えながら、レジュメやスライドを制作していきます。普段の授業では、講師の話を聞く受け身の授業が多いと思いますが、このゼミでは自発的に発信していく機会が多いのが特徴です。個人的には、こういった経験が、就職活動にも役立っていたと思います。
 授業とは少し離れますが、毎年楽しみにしていたのが、ゼミ有志での見学旅行です。
 ゼミの課外活動で都内の美術館を訪れることはありますが、見学旅行では、金沢など普段授業では行けない遠方に足を運びます。訪れた中の一つが、金沢21世紀美術館でした。「まちに開かれた公園のような美術館」が建築コンセプトであり、その名の通り、一般的な美術館のイメージとは異なる外観でした。壁の大半がガラスでできており、自由に中と外を行き来することができます。また、美術館を訪れた方には、周辺の商店街でサービスを受けられたりする仕組みをとり、美術館が周辺地域と積極的に関わった活動をしていました。この金沢への旅行が、私の卒業論文のテーマである地域活性化とアートに関して研究したいと感じたきっかけになりました。
 こうしたゼミでの活動を通して、就職活動をする際に、建築や空間デザインに携わりたいと想うようになりました。そして、建物の雰囲気や印象を決める、内外装材の施工メーカーに就職を決めました。
 現在は、店舗の空間デザインを行うお取引先等に、内外装材の営業を行っています。内外装デザインの提案から竣工までを請け負っています。価値のある空間を、何もない状態から作り上げていくことは大変ですが、とてもやりがいを感じています。これからも、アートや建築に携わり、アートの面白さを発信できる仕事をしたいと思っています。
 卒業して就職した今、ゼミでの時を振り返ってみると、こんなにも積極的に興味を持ち、自ら行動して学んだことは初めてでした。大学を卒業した時に、何かに打ち込んだことが有るのとないのとでは、大きく違います。私にとってはそれがゼミでした。
 せっかく大学に通うのならば、積極的に打ち込めること、熱中できることを見つけてください。充実した大学生活を過ごしてもらえたらなと思います。それが美術史ゼミであればうれしいです。