シラスウナギ密輸の裏にあるのは「無意味な規制」 −NHKクローズアップ現在+を見て−

2016年12月1日、NHKのクローズアップ現代+で「”白いダイヤ”ウナギ密輸ルートを追え!」が放映されました。番組では、養殖に用いるシラスウナギが、輸出を制限している台湾から香港を経由して日本へと輸出されている状況を指摘しています。シラスウナギ密輸が横行している理由としては、日本における土用の丑の日の集中的な消費との関連が、番組内で強く示唆されました。しかし、実際は輸出制限の存在自体に問題があり、さっさと撤廃してしまうのが最善の選択のようです。

香港「密輸」ルート
番組で紹介されている通り、毎年日本には香港から大量のシラスウナギ(子どものウナギ)が養殖のために輸入されます。香港ではシラスウナギの漁獲は行われていないと考えられており、そのほとんど(または全て)は別の国や地域で漁獲されたものが、香港を経由して日本へと輸入されたものであると考えられています。割合を推測することは困難ですが、これらのうち多くは、シラスウナギの輸出を制限している台湾などからの密輸であると考えられています。2015年漁期においては、日本に輸入された3.0トンのシラスウナギのすべてが、香港から輸出されました。なぜ、このような状態が当たり前になってしまったのでしょう。

2015年漁期に日本国内の養殖場に池入れされたシラスウナギの内訳:輸入された3トンは全て香港からの輸入で、密輸が色濃く疑われる。国内漁獲のうち6割を超える9.6トンは密漁や無報告漁獲など、違法な漁獲。

2015年漁期に日本国内の養殖場に池入れされたシラスウナギの内訳:輸入された3トンは全て香港からの輸入で、密輸が色濃く疑われる。国内漁獲のうち6割を超える9.6トンは密漁や無報告漁獲など、違法な漁獲。



 

「土用の丑の日」が問題なのか
NHKでは、土用の丑の日のある7月にウナギの国内消費が突出して多い事を示したうえで、「丑の日に間に合わせる形での養殖というのが、やっぱり日本では盛んなんですけれども、今、盛んなのは、特に半年で育てる方法です。その場合、7月の出荷に間に合わせるためには、半年前ですから、この1月上旬には遅くとも入れなくちゃいけない。」「少しでも早くということで、香港から仕入れて半年で間に合わせるサイクルが出来上がってしまっているという構図なんですね」と、香港を経由したシラスウナギの密輸が、来遊時期の早い台湾のシラスを欲する日本の養殖と消費のあり方にあると説明します。
しかし、これまでの経緯を考えると、この理屈では説明しきれない部分があります。実は、2007年までは、台湾のシラスウナギが香港経由で密輸されるという問題は無かったのです。土用の丑の日におけるウナギの大量消費は、2007年から始まったわけではありません。国内におけるウナギの消費量が現在の倍以上だった1990年代には、すでに丑の日周辺の大量消費が常態化していました。それでは、なぜ近年になってから、密輸が問題になったのでしょうか。

日本へ輸入されたシラスウナギの輸出国:2007年に日台両国がシラスウナギの輸出を制限した。その後台湾からの輸入が激減し、香港からの輸入が増大した。なお、2007年以前にも香港からはシラスウナギが日本に輸出されており、過去には、必ずしも「香港ルート=密輸」ではなかったことが伺える。NHKクローズアップ現代やその他のマスコミでも、このグラフを取り上げるときのタイムフレームは2001年以降。2000年以前に香港から輸入されている状況を見せないようにしている。マスコミによる情報の選択として、問題を感じることの一つ。

日本へ輸入されたシラスウナギの輸出国:2007年に日台両国がシラスウナギの輸出を制限した。その後台湾からの輸入が激減し、香港からの輸入が増大した。なお、2007年以前にも香港からはシラスウナギが日本に輸出されており、過去には、必ずしも「香港ルート=密輸」ではなかったことが伺える。NHKクローズアップ現代やその他のマスコミでも、このグラフを取り上げるときのタイムフレームは2001年以降。2000年以前に香港から輸入されている状況を見せないようにしている。マスコミによる情報の選択として、問題を感じることの一つ。



 

先に規制したのは日本
そもそも、2007年までは台湾と日本は普通にシラスウナギのやり取りをしていました。台湾と日本のシラスウナギ取引は、違法ではなかったのです。しかし、2007年の10月に台湾がシラスウナギの輸出を制限して以来、香港を経由した密輸が横行するようになりました。台湾がシラスウナギの輸出を制限するようになった理由について、NHKの番組では「資源保護のために行った」と説明しています。台湾当局の説明をそのまま述べたと思われますが、規制の背景を知る人間であれば、それが本当の理由とは思わないでしょう。
実は、先にシラスウナギの輸出を規制したのは日本なのです。日本は、2007年5月に国内からシラスウナギを輸出することを制限しました(経済産業省「ウナギ稚魚の輸出について」)(修正:実際には、以前より輸出の制限は存在していました。台湾から制限撤廃の働きかけがあったにも関わらず、日本は2007年5月に改めて輸出を制限した、というのが実情です。事実誤認があったので、修正します。2016年12月9日)。そのわずか5ヶ月後に、台湾が同じくシラスウナギの輸出を制限したのです。ウナギ養殖の業界紙「日本養殖新聞」が輸出制限直後に掲載したブログ記事に掲載された台湾関係者の発言を読むと、当時の背景が見えて来きます。

『再三にわたる問いかけにも日本の養鰻業界からは協力が得られなかった。大手の単年養殖業者から“なんとかしてほしい”といわれてきたが、業界のトップ及び行政の方が動いてくれないのでしかたない。来年の6月から7月にかけての新仔の供給に異変が起きることは間違いないだろう。いかに台湾のシラスが貴重であるか、その段階で理解されるだろうし、本当に困ると思う』
*筆者注:「単年養殖」とは、冬に捕れたシラスウナギをその年中に飼育して出荷する方式のこと。丑の日に間に合わせるには、なるべく早い時期にシラスウナギを入手する必要がある。

当時、台湾で早い時期に漁獲されるシラスウナギが日本へ輸出され、日本で遅い時期に漁獲されたシラスウナギは台湾へと輸出されていました。この関係を断ち切ったのが、日本が先行した輸出制限です(修正:正しくは、台湾の求めに応じないで日本が輸出制限を緩和しなかった、という状況のようです。2016年12月9日)。上記「台湾関係者の発言」からは、台湾によるシラスウナギの輸出制限が、日本の輸出制限に対する報復措置であった可能性を、強く示唆しています。

 無意味な規制と不必要な違法行為
その意図が報復措置であったとしても、輸出制限が結果として資源保護や経済性の向上に寄与していれば、意味のあることなのかもしれません。しかし、資源保護について考えたとき、輸出制限によって消費量が削減されているという証拠はありません。池入れ量制限といったその他の資源管理措置とも連動していないと見られ、資源保護に寄与しているとは考えられません。経済性について、全体的な経済性は規制があれば損なわれますので、問題は地域経済に貢献しているか、ということになるでしょう。クローズアップ現代+の報道では、輸出制限によって密輸が横行するようになった後、養殖業者は仕入れに多額の資金を投入せざるを得なくなり、品質の落ちるウナギが出回るようになったとも伝えています。密輸はリスクを伴うため、通常、売買される品物の値段は適法に流通するものよりも高くなります。少なくとも日本のウナギ業界や流通業界、消費者は、日台の輸出規制によって迷惑を被っているように見えます。
資源保護にも地域経済の活性化にも結びつかない日台間の輸出制限は、存在する意味を持たない規制のようです。しかもその「無意味な規制」は、「密輸」という違法行為を生み出しています。闇流通はデータ管理を困難にし、資源管理にも悪影響をおよぼします。さらに、シラスウナギの価格高騰と結びつき、ウナギ業界にとっても、消費者にとっても迷惑です。無意味な規制によって、大きな社会的な損失が生じているのではないでしょうか。
このように、「密輸」の背景を見てみると、修正すべきは日台間の輸出制限であり、土用の丑の日ではないことが分かります。もちろん、ウナギの消費のあり方は、考え直す必要があります。しかし、密輸の対策として丑の日の消費のあり方を持ち出すことは、問題の核心を見誤らせます。日台間の密輸問題に関しては、トレーサビリティを担保するシステムを確立するとともに、互いの輸出制限を撤廃することで解決できます。違法行為もない、ウナギの値段も下がる、資源も管理しやすくなると、全てが丸く収まる方法です。それがうまく進まないのは、現在のシステムで少なくない利益を得られる人たちがいて、それらの人たちが改革に反対するためなのかも知れません。

国内の違法行為についても議論を
「密輸」という言葉が持つ闇の響きには、人間の心を惹き付けるものがあるようで、今回の番組だけでなく、雑誌でも大きく取り上げられています。しかし、2015年漁期に日本の養殖場に池入れされたシラスウナギ18.3トンのうち、輸入されたものは16.3%(3トン)に過ぎません。残りの83.7%(15.3トン)は国内で漁獲されたシラスウナギであり、そのうち52.5%(9.6トン)は密漁や無報告など違法な漁獲です。密輸も問題ですが、国内の違法な漁獲や流通が野放しになっている状況についても、現状を的確に把握し、問題の解決に向けた議論を進める必要があります。

2016年12月5日
中央大学法学部 海部健三

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