残存能力/能力向上に関する研究

認知症は記憶を含む様々な種類の認知機能の障害が合わさった状態で,症状が進むにつれて,これらの機能も低下することが知られています.しかしそのような状態でも,残された機能に目を向けることによって,当事者の方々の能力を再確認することができるばかりか,脳の機能についても再認識することができます.

また認知症や高次脳機能障害の方々の中には,受傷や発症後に特定の能力が向上することが確認されています.

視知覚に障害がある方々に対する運動情報の有効性

認知症のタイプの一つに,大脳の後方から症状が進む病態(posterior cortical atrophy: PCA)があります.PCAの方々の中には,視覚障害をより強く訴える方もおり,盲のように振る舞うこともあります.そのような方々でも動くものや自分が動くことによって周囲が相対的に動くことによって,見えにくさが軽減することがあります.
自身の運動に対しても,「動き」の視覚情報は有効なようで,ジャンケンのグーやパーのような簡単な手指の模倣ですら困難な患者さんでも,グー・パーを連続する動きとして呈示すると,とたんに模倣が可能となることもあります.

前頭側頭葉変性症と能力の開花

認知症にはいくつかの種類があり,その中の一つに前頭側頭葉変性症(fronto-temporal lobar degeneration: FTLD)があります.FTLDはさらに原発性非流暢性失語症(primary non-fluent aphasia: PNFA),意味性認知症(semantic dementia: SD),前頭側頭型認知症(fronto-temporal dementia: FTD)に分けられます. この中の意味性認知症は,言語の意味理解の障害を特徴としており,語義失語と言われる症状を示すことがあります.よく知っているはずの単語を聞いても,おうむ返しはできても意味が分からないという状態です. このような患者さんに絵を描いてもらうと,驚くほど精密で色彩も豊かに描くことができるようになります.これまで本邦でも絵の勉強をしていた人の絵が発症後に変化したという報告はありましたが、私たちの研究チームは,これまで絵の素養が無いような一般的な人でも発症後に絵が向上する可能性があることを報告しました.
前頭側頭型認知症の患者さんは,症状が進むと自発性が著しく損なわれることがありますが,そのような患者さんでも,紙とハサミを手渡すと,驚くほど正確に紙を切ったり,幾何学的な法則性を示すことがあります.これらも認知症の患者さんに見られる向上した能力の一部と考えられています.

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